第19回アジア競技大会振り返り Part2

アジア大会振り返りPart2です。Part1はこちら↓

ここからは、全9ラウンドの試合を少し細かく見ていこうと思います。ゲーム全体の詳細な解説はしませんが、各試合ポイントになったところや感じたところを少しずつ振り返っていければと思います。


1R FM Yamada, Kohei (JPN, 2157) 1-0 GM Bilguun, Sumiya (MGL, 2460)

ペアリング(と参加者リスト)は初戦の開始30分前くらいに発表されたと思います。
初戦の相手はモンゴルのGM Bilguunでした。相手については、今年のW杯にいたなーという印象しかなかったのですが、今年のZone3.3優勝者でかなりの強敵だったということが試合後にわかりました(笑)。
そして、実際に彼はこのあと快進撃を続け、最終ラウンドでトップボードまで上り詰めています。チーム戦でもスーパーGMに対して互角に戦っており、ちょっと2400台というレベルのプレーヤーではありませんでしたね…。

オープニングはKan Sicilianとなったので、ここ最近勉強量が多いMaroczy Bind Structureに組みました。このゲームの個人的ポイントは序盤終わったくらいから。

16…Qf8まで

ここでは白の駒組が自然にできており、d6の弱点も狙える形で定跡書なら「これにて有利」の局面です。ただ、具体的にどう拡大していくか、という部分でだいぶ悩んでいました。
17.b3からゆっくり指すのも有力そうですが、黒からKh8-Ng8-Bh6のようなアイディアもあり、黒の手が尽きるのはだいぶ先に思えます。

17.Ng5!? Kh8 18.Bf1 Ng8 19.b3 Nge7

一応、e6ビショップを好きなときに取れるようにナイトを跳ねてみましたが、ゲーム中はこのプランにはあまり良い感触を持っていなかったです。

20.Nd5 h6!? 21.Nxe6 fxe6 22.Nxe7 Nxe7

感触が良くない理由は、本譜のように交換を迫られたときにd5のマスが使えなくなってしまうためです。ただ、g6、e6、b7の弱点と振り替わる形になったので、少なくともアイディアではないだろうと考えていました。
この後はお互い持ち時間が少ない中、逆転されて一時敗勢に陥ったのですが、まさかの一手メイト見落としにより勝ってしまいました

ラッキーといえばラッキーなんですが、序中盤は黒も苦しい形を強いられており、そこから抜け出したことによる気の緩みみたいなものはあったと思います。
0.5ポイント取ることすら簡単でないこのトーナメントでは、非常に大きな一勝でした。

2R GM Wei Yi (CHN, 2735) 1-0 FM Yamada, Kohei (JPN, 2157)

2RはリストトップのWei Yiと当たりました。言うまでもなく世界トップレベルの一人ですね。2700GMと当たるのは、ジャパンリーグでHikaruと対戦して以来人生2回目のはずです。
このゲームはNajdorfのややマイナーなラインでスタートしました。実は、白でも黒でも経験のある形だったのですが、久しぶりだったこともあって正しい手順が思い出せず、手順前後をうまく利用されて有利な局面を作られてしまいました。Hikaruと指したときは正直何が強いかもわからないままふっ飛ばされましたが、今回は「この人強いんだなー」ということはよくわかりましたw

13.a5まで

ここまでは定跡手順ですが、次の

13…Kh8?!

が微妙な手でした。すぐに13…f5として何かのときにf4を突く準備が必要だったようです。

14.Qd2 Rb8 15.Be2 f5 16.O-O Nf6?

そして、この16…Nf6が致命的なミスでした(ただし棋力がイケメンな相手に限る)。

17.Ba7! Ra8 18.Bb6 Qd7 19.f4!

このf4でキングサイドのカウンターが止まってしまい、b4だけ弱点として残る形になり、大きく形勢を損ねました。
戻って、16…f4!は黒から先着しなければならず、e4-f3やQe8-Qg6でカウンターを準備しなければならなかったようです(13…f5がbetterなのは、違う形でも同じように早いf4突きが必要になることがあるため)。

ちなみに、ここまで相手の手が止まった箇所は

  • 14.Qd2(1分45秒)と15.Be2(2分28秒)

  • 17.Ba7(1分4秒)と19.f4(1分18秒)

だけで、他の手は10~20秒程度の消費時間でした。相手のミスを察知する能力がエグすぎます(それでも指すのには3分使ってないという…)。

あと、このゲームで印象に残っているのは次の局面。

21.Rd4まで

d5へのカウンターを止められて、かなり黒が苦しいと思っていた局面です。黒から何を指すのが良さそうでしょうか?
本譜は21…f4と紛れを求めてキングサイドで手を作ろうとしましたが、きれいに逆用され、最後にノータイムでダブルエクスチェンジを切られて、仕留められてしまいました。

局後、感想戦で図の局面を迎えたときに、彼が指摘した手は

21…b3

でした。なにそれ…と思ったんですが、帰ってからエンジンチェックしたところ21…b3はベストムーブでした。
試合中は全く考えておらず、正直なところ言われて理解できるかできないかギリギリくらいの手なんですが、2700GMにとっては自然な発想なんでしょうか…。

3R FM Yamada, Kohei (JPN, 2157) 1-0 GM Priasmoro, Novendra (INA, 2412)

3RもGM戦。Priasmoroはラピッドレーティングこそ2400台ですが、インドネシアのトップGMの一人であり2500クラスの相手といって良いでしょう。が、Tuさんによる「時間のないときのプレーは怪しい」というタレコミがあり(笑)、勝負形で終盤まで持っていければ、とは考えていました。

このゲームについては、日本チェス連盟から出るレポートの方をお楽しみください。

序盤選択についてだけ簡単に触れると、このラウンドは2日目初戦だったので、早い段階で相手のプレパレーションは外したいと思っていました。Italian(1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bc4 Nf6 4.d3 Bc5)を選択してきたので、いつも指している5.c3はチェックされているだろうと思い、急遽5.Bg5を指すことにしました。
5.Bg5はあまり現代Italianっぽくない手(私見)ですが、数年前から少しずつ市民権を得てきており、白黒ともに工夫の余地があるラインだと思います。チェコで1試合試したときには上手くいかなかったので、その反省を踏まえながら指そうと思っていました。

結局、中盤は不利に陥ったものの、その後黒に不正確なアイディアがいくつかあり逆転勝ち。もちろん相手のミスにも助けられましたが、途中いくつか良いアイディアを発見していたことが勝利に繋がったので、GMとも勝負できると自信になったゲームでした。

4R GM Maghsoodloo, Parham (IRI, 2662) 1-0 FM Yamada, Kohei (JPN, 2157)

勝ったことで、4RもスーパーGMと当たりました。人生初のGM4連戦、しかも2人目のスーパーGMです。

このゲームはこちらの出来が悪く、序盤から大きなリードを取られて、見るべきところもなく圧殺されました。Englishに対して、遠征中は1...c5が感触良かったのですが、本譜の形に対する経験があまりなかったというのが大きかったです。
3Rのあと、4Rまでの時間が短く、Maghsoodlooのゲームをきちんと見れなかったのですが、後で彼のレパートリーを再チェックして、QGD形を選んでも良かったかなとちょっと後悔しました。
後半戦の対Englishで1…c5としなかったのは、このゲームによるところが大きいです(笑)。

ずっと黒にとって絶望的な局面だったので、適当に指しても白が勝ったと思うのですが、万が一にも反撃を許さないという慎重な姿勢と、タクティクスが発生した瞬間に時間を使って決めきるという例の嗅覚が、スーパーGMたる所以なのかなと感じました。

でも途中棄権しないでほしい

5R FM Yamada, Kohei (JPN, 2157) 1/2-1/2 FM Laohawirapap, Prin (THA, 2325)

ようやくGMとの連戦が終わりましたが、それでも2300台相手と厳しい戦いが続きます。Prinくんは今年急激にレーティングを伸ばしてタイのNo.1となっており、W杯にも出場したプレーヤーです。
このゲームは3日目、3試合日の初戦で、この日1.5P取れれば最低限の目標は達成できるため、内容を度外視してもポイントをかき集めたいところでした。

ゲームはSicilian Dragonの超マイナーラインでした。なんとなくこの辺りのラウンドから、相手の警戒レベルが増しているような雰囲気を感じてきました。Dragonの...h5形は相手の得意戦法のようで、そこは予想通りだったのですが、...a6とミックスした本譜の形は想定していなかったです。

8…h5まで

すでに自分にとっては勝負どころです。白にとって最もやりたい手は9.Bc4ですが、9…b5の後にビショップを引いてしまうようでは面白くありません。なので、ある程度激しい形を覚悟してビショップを出る必要があります。

9.Bc4 b5 10.Bd5! Nxd5 11.Nxd5 e6 12.Nb6!

この手を早い段階で発見できたので、9.Bc4~10.Bd5を決行しました。12…Qxb6? 13.Nxe6 Qb7 14.Nxg7+ Kf8 15.Bh6! Kg8 16.Ne8+-で、g7のナイトが生還できるのがポイントです。

12…Ra7 13.Nxc8 Qxc8 14.Nxb5!

このあたりだったと思いますが、突然、このラインを1年くらい前に見たことを思い出しました(笑)。ドラゴン対策で色々悩んでいた時期に、エンジンで探った手順の一つでした。
道理で難しい手がぱっと見えたなーと思ったんですがw 正直、もう少し早く思い出して、持ち時間をセーブしたかったですね。

14…axb5 15.Bxa7 Bxb2 16.Bd4! Bxa1 17.Bxa1 +/=

ここまでは一本道。黒マスを支配できている分、やや白が優勢です。
ただ、相手はここまでずっとノータイムで、もっと先まで準備がありそうな雰囲気でした。こちらの持ち時間も10分少々というところだったので、勝負に行くかだいぶ迷った結果、少し後に3回同一局面のドローで妥協することにしました。

最終局面、21…Qc2まで。

最終局面が良さそうなのはわかっていましたが、25.Qd7 Qc5+! 26.Kh1 e5!(試合後にチェックしたところエンジンの推奨手順の一つでした)や、25.Rd1 Kh7!に確信が持てず、持ち時間が少ないこともあって踏み込むリスクが大きいかなと思いました。
準備で遅れをとったこともあり、仕方ない選択だったかなと思います。

…疲れてきたので、今回はこの辺で。次回は後半ラウンドの簡単な振り返りをしようと思います。

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