第19回アジア競技大会振り返り Part3
アジア大会振り返りPart3です。Part2はこちら↓
この記事では、後半4試合の振り返りと、大会全体の振り返りを書いていこうと思います。
6R FM Yamada, Kohei (JPN, 2157) 0-1 GM Hossain, Enamul (BAN, 2466)
勝率5割をキープしたことで、またしてもGM戦です。
1...e5か1...c5と思っていましたが、1...e6でした。今年に入ってから指しているFrench Advanceを採用したところ、またしてもマイナーラインをぶつけられてしまいました。序盤のアイディアを思い出すことができず中途半端にすすめてしまったこともあり、経験の差を活かされて、ほぼ抵抗できずに負かされてしまいました。
ところで、French Advanceの白番は遠征中も何度か指しましたが、勝率・感触があまり良くありません。Caro-Kann Advanceはそれなりに良い内容と結果を残しているので、同じポーンストラクチャで対Frenchも指せたら面白いなーと指してみているのですが、まだあまりポイントを掴みきれていないようです。
このままAdvanceを指し続けるか、メインラインに戻すかはちょっと考えてみようと思います。
これで再びの負け越し。前半戦でポイント差ができたことで、互いのためにも逃げ切りたかったのですが…。
7R IM Kojima, Shinya (JPN, 2318) 0-1 FM Yamada, Kohei (JPN, 2157)
残念ながら同ポイントに追いつかれてしまって、小島くんと当たってしまいました。ここまでは対面に座った相手を気にすることなく指せていたのですが、流石にこのラウンドはちょっとやりづらかったです。
とは言え、当たってしまった以上は真剣勝負するしかありません。黒なのもあって、ドロー上等とは思っていましたが。
ゲームの棋譜と解説については、小島くんのブログをみていただければと思います。
大会前に2人で練習していたときには、1.Nf3 c5の出だしがメインでしたが、本譜の形もBlitzで指していました。Blitzでは10…Nc6と指したので、こちらから10...Nbd7と手を変えてみましたが、これでも小島くんは経験ありの形だったようです。自分としては、知識差がある形からはなるべく早めに離脱したかったのですが、小島くんの知識から逃れるのはなかなか難しいタスクです。。
12...b4からe4を取るアイディアがリスキーなのはわかっていましたが、なんとか少し悪いくらいで捌ければ…と考えていました。とにかく、キングが露出したままだと勝負にならないので、無理やりキャスリングしてみます。
上図で17.Bc2! Ndf6 18.Qf3!だとe4のナイトが助かりません。このとき18…Qb5とするのが数手前からの予定だったのですが、19.Bxe4と取られた手でc6のルークにヒモがつくのをうっかりしていました。
とすると、ここでは負けになっていますが、黒に都合良く変化する余地はあまりなく、結論として11…Qb8が微妙な手だったようです。
ただ、キャスリングした段階で期待していた手順がひとつあり、本譜はそれが実現しました。
17.Qd4? Ndf6 18.Bc2? e5!
Qd4-Bc2は、ピースをセンターに配置しながらe4のナイトを攻撃する、最も自然なアイディアに見えますが、18…e5!という返し技があって成立しません。
白としては…e5を避けるために、18.Nb6 Ra7 19.Nc4 Rd7 20.Rb6 Qc7 21.Nxd6 Rxd6 (21…Nxd6 22.Qxb4 Nf5 23.Rc1=) 22.Qxb4 Rxb6 23.Bxb6 Qb7= のような変化に入るしかなく、17.Qd4の時点ではアドバンテージを失っていたようです。
…e5が入って黒マスのダイアゴナルを活用できるようになったことで、一気に黒が有利になり、そのまま押し切ることができました。
8R IM Markov, Mikhail (KGZ, 2256) 1/2-1/2 FM Yamada, Kohei (JPN, 2157)
前ラウンドの勝利で、再び勝率50%に戻しました。
8Rは同ポイント勢の中では、一番チャンスのありそうな相手に当たりました。棋譜を見ていた感じでは、序盤にはあまり明るくなく、今大会はそれほど調子も良くなさそうだったので、黒ですが勝ちを目指したラウンドになりました。
上図までは順調に進めて、すでに黒が十分以上の局面です。ただ、ここでなんとかアドバンテージを拡大できないかと時間を使いすぎたのが良くなく、中盤の勝負どころが雑になってしまいました。
本譜は12…Rc8としたのですが、素直に12…cxb3 13.Qxb3 b4!とパスポーンを作っておくのが、最も簡単な指し方でした。本譜もパスポーンを作るという発想は同じなのですが、白ピースがよりアクティブになってしまい、bポーンがターゲットになりかねない展開でした。
結局上手い継続を発見できず、時間切迫に陥り、逆に局面を悪くしてしまいました。この負けパターンは遠征中も何度もやってしまったので、今後改善していきたいところです。
なんとか粘って互角に戻して迎えたのが、下図。互いに時間切迫だったこともあり、ちょっとしたトリックを仕掛けに行きます。
42…Qe4+!? 43.Qxe4?? Nxe4 -+
さも強制かのようにクイーン交換を迫ります(笑)。キングをかわしておけばなんともないのですが、このクイーンを取ってくれたことで、突如Nd2-b3が受けられない状態になってしまい、ビショップを取ることができました。
流石にピースを取れれば、理論上は勝ちだと思ったのですが、キングサイドのポーン形が悪く、そこまで簡単ではありません。最もクリティカルだったのは、次の局面だったと思います。
ここで54…Ne6+ 55.Ke4 g5!ではっきり勝ちでした。いくら時間がないとは言え、55…g5が見えなかったのはちょっとひどかったです。この後も勝ちではあったのですが、短時間で発見するのが難しい形になってしまったため、上図できっちり仕留めるべきでした。
ゲームが終わって、首をひねりながら控室に戻ると、PCで観戦していた黒坂さんから一言「勝ってましたよね?」
てっきり、ピースとった後のエンドゲームの話かと思って、いや難しかったんですよー・・・と思いながらみると、途中で以下のような局面がありました。
このちょっと前にポーンを取られており、上図で35…Qxd4??とポーンを取り返して、「少し盛り返したかなー」とか思ってたんですが…。
なんと35…Qa1+でビショップが取れていました…。こういう簡単な見落としをしないのが特にラピッドでは効きますね。
結果だけ見るとやや上の相手に黒にドローと悪くないのですが、少なくとも2回ははっきり勝てる局面があったので、反省の多いゲームでした。
9R FM Yamada, Kohei (JPN, 2157) 0-1 IM Nogerbek, Kazybek (KAZ, 2417)
勝ち越しをかけた最終ラウンドは、カザフスタンの若いIMでした。アジア大会後のQatar Mastersでも安定したプレーをしていましたね。
実力的にはGMレベルの相手と言ってよく、指していて楽しかったです。
ゲーム自体は、レーティング差の割にはこちらも上手くさせていたと思います。が、正直にいうと局面のバランスを保つのが精一杯で、全体的には相手のプレッシャーに(心理的に)受け身になってしまった部分があったかなと思います。
その意味で、最終成績に関わってくる後半2戦はあまり良い精神状態では指せていなかったと思います。
ただ、(結果的に)いい勝負にできたことで、相手の強い部分をより感じることもできたと思います。盤上ではなんとかバランスをとってはいましたが、戦略的な理解度や決断のスピードは何枚も上手という印象でした。
このゲームを振り返って印象に残っているのは、上図です。
24.Nb1?!
Nc1-Na3(Nd2)-Nc4を狙った手ですが、このマニューバーがいくつかの意味で微妙な手でした。
hファイルからルークを使わせてしまう(これは解説の南條くんも指摘していました)
Nc4に行くまでのナイトの位置が良くないので、取り残されるリスクが高い
特に一点目の理由から、24.g6!?にはもう少しスポットを当てるべきでした。また、本来はセンターに向かってナイトを使いたいので、24.Ne2もあるかなと思いましたが、こちらは24…hxg5 25.hxg5 Rh4!が嫌だったのでやめました。
24…hxg5 25.hxg5 Rh3!? 26.Na3 Rc5!
この手が私にとって誤算でした。27.Nc4の予定でしたが、27…Rxd3 28.cxd3 d5があって、27.Nc4を断念してしまいました。後々、必要のないルーク交換をしてしまうのですが、この遠因はこの変化でc5のルークが強いというイメージを持ってしまったことにあったと思います。
実際には、予定通り27.Nc4!がベストで、27…Rxd3? 28.cxd3 d5 29.exd5 exd5 30.f6! gxf6 31.gxf6 Ng6 32.Rf5!+- でc4のナイトは助かっていたのでした。ちょっと実戦では気付きづらい手ですが、Nc4が実現しないと白のプランが瓦解するので、踏み込んで読まなければならなかったかもしれません。
9試合振り返ってみて
全体通してみて、タクティカルなミスは思ったよりも少なかったかなと思います。差がついたところは、どちらかというとポジショナルな感覚や判断の部分だったので、どのゲームも勉強になりました。
IM・GMレベルとはまだまだプレーの質に大きな差がありますが、13年前と違って、全く勝負にならないということもなく、少なくとも指し分けの成績を狙うくらいまでに戦えたというのも大きな収穫です。
オープニングに関しては、今大会に関しては上手く行かなかったゲームの方が多かったですが、大きな問題を抱えている、というほどでもないと感じました。
まだまだ指し慣れていない形も多いので、そこはもう少し実戦練習を増やして、ポイントをつかめるようにしていきたいですね。
後は、レパートリーの幅をもう少し拡げて、よりプレパされづらいスタイルを目指すのもトライしてみたいです。
中終盤以降では、細かい精度の差が大きな意味を持つゲームが今後増えてくると思います。IM・GMレベルの相手とコンスタントに良い勝負をしていくには、読みや形勢判断、プラン選択の精度をもう少し上げていかなくてはなりませんね。
最後になりましたが、今回のアジア大会では、たくさんの方々に応援いただき本当にありがとうございました。チーム選手権の表彰式でもらった寄せ書きも力になりました。
来年はチェスオリンピアードもありますし、今回でチェスに興味を持っていただいた方には、ぜひ今後もチェス日本代表の戦いを応援していただけると嬉しいです!