3月12日 駄菓子のパッケージは楽しみを運んで【今日のものがたり】
「高坂(こうさか)くんの財布、スゴい柄だね」
俺がポケットに財布をしまおうとしたとき、隣の席の眞木(まき)にそう言われた。
「ん? スゴい柄って別にフツーだろ。スイーツ……カップケーキ柄なんだし」
「いやいや、結構派手だよ。かわいいけど」
「だろ? かわいいならいいじゃん」
前に使っていたのはチョコレート柄の財布だったんだが、かなりガタがきていたので、このスイーツ柄をインターネットで探して購入して少し前から使っている。
「もしかして、携帯(スマホ)とかも柄もの?」
「見るか? ほれ」
俺はバッグから手帳型ケースをつけた携帯を取り出す。
「これ……レトロな……駄菓子柄、でいいのかな? 高坂くんって本当にお菓子が好きなんだね」
本当にお菓子が好きなんだね。
よしよし、着実に俺の菓子好きが広まっているな。いい傾向だ。これでお菓子同好会の入部(入会か?)希望者がいつか現れてくれれば願ったり叶ったりだ。間違ってもこちらから無理矢理勧誘ということはしない。無理矢理誘ってやめていったほかの部活動の面々を見ているからな。入りたいと思う、その気持ちが入部の第一条件だ。
「ペンケースはお菓子柄じゃないの?」
眞木の視線が俺の机の上にあるペンケースに注がれる。俺はおもわずニヤリとしてしまう。
「それな。常時見えるところにお菓子があると飯テロみたいな感じになって、昼前の授業中にお腹がなったことがあるんだよ。だからケースは無地にしてるんだ」
「ケースは……ってことは、なかの……」
「おうよ。ほら」
俺が無地で青色のケースから取り出したのは、有名なお菓子のパッケージ柄の消しゴムだ。パッと見、そのお菓子のミニチュアバージョンにも見える。
「かわいい! 今度消しゴム買うときそれにしようかな」
「なんならこれ、あげるぞ。って、あげるなら新品にしろって話だよな。家にストックあるから持ってくるよ」
「え、いやいや、それは……え、いいの?」
「いいよ。消しゴムは使ってナンボだろ」
「うれしい。高坂くん、ありがとう」
明日、いくつか持ってきて眞木に選んでもらおう。
「俺もまさか眞木とお菓子話? できるとは思わなかったよ。眞木ってお菓子あんまり食べないイメージがあったから」
「えー私もフツーに食べるよー」
ふむ。いつも同好会のメンツとは話すけど、これはこれで楽しいものだな。