見出し画像

7月21日 ナツイチを探しに【今日のものがたり】

「森島(もりしま)ってさ、文庫本買ったりする?」

 放課後の図書室。ひょんなきっかけで私はクラスメイトの飯森(いいもり)くんが図書室のカウンター担当の日にここへ来るようになった。
 本日は……というか本日も、といったほうが正しいのだけど、図書室の閲覧席を利用しているのは私だけである。かくいう私も毎日利用しているわけじゃないから、ほかの日の利用率はわからないのだけど。

「たまに買うよ。あ、夏になるとフェアみたいなのあるよね? 買うと特典がもらえるやつ。そういうときに買ったりする」
「あーやってるなー。しおりとかもらえるやつだな」
「そうそう。飯森くんは買わないの?」
「俺もたまに買うんだけど、その買うときの決めてってなんなのかなってふと思って」
「今話した、フェアをやってるからっていうのはひとつの決め手だよね。他には……んーなんだろ、なんかこう、物語を欲するときとか? どういときにそうなるかって聞かれると私もうまく答えられないんだけど」
「物語を欲するとき、か。いんや、なんとなくわかるよ。なんとなくだけど。物語は心の栄養って言うしな」

 物語は心の栄養か。私もどこかで聞いたような気がする。でも、うん、そうだなって私も思う。私の心の栄養は今この時間でもあるのだけど。

 ……

 い、今、私は何を思った?!
 手元にあった文庫本を開いて顔を隠す。なんかほっぺが熱い……。ああ、単行本のほうが完全に隠せたな……。

「どうした? 文庫本にそんな頭つっこんで」
「な、なんでもないよっ。こ、こ、今度さ、本屋さん一緒に行って文庫本物色しようよっ」
「えっ?」
「ほほ、ほら、特典もらえるフェアをやってるかもだしっ」

 って私、文庫本に顔をつっこんだまま何を言っているんだ。私が誰かを……飯森くんを書店に誘うなんて……。

「そ、そうだな。栄養補給は必要だもんなっ」
「だ、だよね!」

 どうしよう。文庫本から顔を上げるタイミングがわからない……!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?