3月4日 差し入れは幸せのクロワッサン【今日のものがたり】
「こんにちはー」
「いらっしゃいま……高志(たかし)か」
「いやいや、そこは最後まで『いらっしゃいませ』ってさわやかに言ってよ、姉貴」
僕は今、姉夫婦が経営しているパン屋さんにやってきたところだ。身内のひいき目抜きにして、ここのパンはおいしい。
「高志さん、いらっしゃいませ」
姉貴のかわりに、めっちゃさわやかに言ってくれたのは旦那さんの戸村(とむら)くん。姉貴が結婚しても戸村くん呼びするから、僕もつられて戸村くんと言ってしまっている。
「クロワッサン5個とチョコクロワッサン5個ください」
「かしこまりました」
戸村くんは「できたて用意しますね」と言って奥へと入っていった。
「今日も取材があるの?」
「正解! なんか女性誌の占いコーナーみたい」
「載る号が決まったらまた教えてね」
「いつもチェックありがとうございます」
「私以上に戸村くんが楽しみにしているんだよね。“オーヴ高”さまの占い、信じてるのかな」
そう、何を隠そうこの僕、占い師を生業としているのでございます。
「って、信じてるのかなって、そこ、首かしげない。……まぁ、信じる信じないは人それぞれだけど」
「高志はいつでも正直だね。でも、だから、信じたくなるのかな」
戸村くんが僕の占いを楽しみにしていることが改めてわかり、やる気が増してくる。今日もがんばるぞ。
「それにしても今月は取材が多いね。いつも、ここのクロワッサン差し入れにしてくれてありがとね」
「姉貴と戸村くんが作るクロワッサンは僕の大好物だから。やっぱり差し入れは自分が美味しいと思うものにしないとね」
「おいしいと言えば高志、紅茶屋さんの新作バウムクーヘン食べた?」
「え、なにそれ、聞いてない」
「めちゃくちゃおいしいから食べてみて」
「情報ありがとう、姉貴! 占い師としてもいろんなところにアンテナはらないとだから、さっそく食べてみるよ」
でも、あの紅茶屋さん、店員さんがめっちゃイケメンなんだよなー。こっちがドキドキしちゃうくらい。味わかるかな。
「高志さん、おまたせしましたー」
「ありがとう! ああクロワッサンのこうばしい匂いがたまらないなー」
今日の取材も幸せ気分で楽しめそうだ。
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