第16球 プロ野球選手の少年時代 投手編2

 皆さま、こんにちは。東売ギガンテスの野岡 聡(のおか さとし)です。三岡からの指名で今回のエッセイは僕が担当します。

 三岡のエッセイ読ませてもらいましたけど、あいつはホント、根っからの野球好きっていうか、今でも野球少年ですよね。見た目もいつまでも少年っぽいし。僕と同い年なのに、絶対三岡の方が若く見られるし。まぁ、僕がおじさん顔ってのもあるんですけど。髭は生やしてないんだけどなぁ……。

 では、僕の少年時代の話に入っていきたいと思います。僕も三岡と同じピッチャーなので、将来ピッチャーを目指している人への一つの参考になれれば、と思います。

 まず僕は、野球が一番好きなスポーツだったわけではありませんでした。細かくいうと、ほかのスポーツもいろいろやっていて、そのなかの一つが野球だったのです。ただ、どれも本格的にというわけではなく、学校の体育の延長みたいな感じです。でもいつまでも体育の延長ではいられないのも事実で、僕のなかでこのスポーツを続けたい、という思いが生まれ、残ったのが野球でした。
 正直言うと、ほかのスポーツのほうができていたんです。なのに僕は「野球がやりたい」と親に話しました。たぶん、このころから負けず嫌いだったんだろうなと思うのですが、できないからこそ、できるまではやめないでやるみたいな、野球に対して競争心みたいなのがあったんです。人にではなく、野球というスポーツに対して。その燃える思いみたいなものがあったから僕は今、こうしてプロ野球選手になれているんだろうなとも思います。もしかしたら、楽しい、だけだったら僕は野球を仕事にせず、趣味としてそれこそ楽しんでいたかもしれません。

 というわけで、難しい野球を選んだ僕はよく泣いてました。こう投げたい、こう打ちたい、という思いはあってもそれが全然できなくて、泣いてばかりでしたね。なのに、もうやめるとは一度も言わなかったと両親が話してくれました。そりゃそうです、負けたくなかったんですから、野球に。ホント今思うと妙な対抗心だよなぁ……。

 僕は自分でも、投げるより打つほうが向いているなとわかるくらい、バッティングが得意でした。小学生の頃はよくホームランを打っていて、四番を任されたりもしました。……わかりますね、それで僕が満足しないことを。案の定、投げるほうに闘争心がわきました。しかし、まぁ、ぽんぽん打たれる。気持ちいいくらい打たれて、これで野岡もピッチャーはあきらめるだろうと、みんな思ってたらしいです。言ったところであきらめるつもりはありませんでしたが、みんななにも言わないので、僕はピッチャーを続けてもいいんだと解釈し、ずっと投手を続けました。……うーん、続けられた環境に感謝しかないですね……。

 ただ僕も、打たれまくる中で、少しずつ考えるようになりました。どうしたら気持ちよく投げられるのか、打たれて悔しくて泣いてばかりいたら、試合を見に来ている両親や、妹・弟にも恥ずかしい姿を見せるようになる。それは嫌だ。カッコいいお兄ちゃんでいたいって思ったわけです。で、そう思った日から、悔しくても泣くことだけはしないぞと心に決めました。実際にその日から野球のことでは泣いていないです。あ、ヤバいなと思ったときは顔を洗ってごまかしてました。

 できないことをやりたがる僕は変化球を投げてみたくなり、三振がとれるフォークを練習し始めました。まぁ、よく腕を壊さなかったなと思いますが、フォークは難しかったですね。全然落ちない。落ちても中途半端で甘い球になっちゃって、痛打されることがよくありました。
 それでもあきらめの悪い僕は高校生になってもただひたすらストレートとフォークを投げに投げ、気づいたら、スカウトの方が見に来てくれるくらいになっていたんです。
 野球に負けたくないという妙な対抗心もついにここまで……と、当時はそんな風には思っていませんでしたが、スカウトの方が来て嬉しくないわけはありません。だって、プロになれるかもしれない、という思いを抱かせてくれたわけですから。野球ができなくて、泣いてばかりいた僕にスカウトが……! そりゃあ、舞い上がりますよね。で、打たれるっていう。はい、バカでした。

 それでも、ずーっと見に来てくれるスカウトの方というのは僕も顔を覚えます。この人、僕がダメなときも良いときも変わらず見てくれてるなって。たぶん、僕がプロ野球選手になるとしたらこのスカウトの方がいる球団なんだろうな、と思うようになっていきました。
 僕って、自分でいうのもなんですが、ピッチングにムラがあって、すっごく良いときはバシバシ三振とれるのに、ダメなときはぽんぽん打たれて、評価が難しいピッチャーだったと思うんですよね。え? だった、じゃないって? ……ノーコメントでお願いします。

 高校3年間もけがなく元気に投げ続けた僕は、ドラフト会議で東売ギガンテスから5位指名をいただきまして、入団が決まりました。いやもう、指名されたってだけですごく嬉しかったですね。高3の夏は地区大会2回戦敗退で、結局一度も甲子園に行っていない僕がドラフトで指名される……あ、その日だけは野球のことで泣きました。もちろんうれし涙ですけどね。

 僕を推してくださったのは、やはりずーっと見に来てくれていたスカウトの方でした。縁というものを感じました。
 野球が特別好きだったわけではない僕が、思うようにできなくて悔しくて、だからあえて選んだ野球というスポーツを大人になった今、仕事にしている。不思議なもんです。
 もちろん、野球が好きか嫌いか、と聞かれたら、好きと答えます。でもその好きはピュアな感情だけではないということです。うーん、ひねくれてるなぁ。

 だからもし今、野球が一番じゃないのに続けていて悩んでいる人がいたら、とりあえず続けてみることをオススメします。その先にはピュアな好きが待っているかもしれないし、僕みたいに変則的な好きが待っているかもしれない。
 でもこれだけは言えます。
 野球を選んで後悔したことは一度もありません。


 それでは、次回のエッセイもお楽しみに。
 東売ギガンテスの野岡でした。


◇野岡聡プロフィール◇
東売ギガンテスの先発投手として今季18試合に登板。ダイナミックなフォームから繰り出されるMAX155キロのストレートを武器に、角度のあるフォークで三振をとるピッチャー。今季はチームの先発右腕として最多の勝利数をあげた。来季も先発の一角を担い、勝利を積み上げる。

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