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6月27日 雑誌を見つけたら【今日のものがたり】
事務所の資料室を整理していたら、10年近く前の女性ファッション誌が何冊も出てきた。
(私が高校生くらいのころかな)
その当時に私が読んでいたのはもう少しティーン向けのもので、きょうだいもいないからこの雑誌をまともに読んだのは大学生になってからだったと思う。
(でも、どうしてこの雑誌が事務所に……?)
最近のものならわかるけど……いや、最近のものと共通点があるとしたら……。
私は目次を確認する。巻末特集のコーナーで見覚えのありすぎる名前が飛び込んできた。
『伊出 高志さん特別インタビュー』
私が勤務している事務所の所長は伊出 高志(いで たかし)さんである。私は記されているページを急いで開く。
10年近く前の姿なはずだけど、今の伊出さんとほとんど見た目が変わらず、ゆえに、この雑誌に載っている人が所長の伊出さんだと確信が持てた。
(伊出さん、こんな前から雑誌に載ってたんだ……)
今は複数の雑誌で連載を持っている伊出さんだけど、駆け出しのころはいろいろ苦労したと聞いている。
(ここにある雑誌、全部伊出さんが載っているのかな?)
所長のことはここの事務所の面接を受けるかなり前から知っていて、ある程度は調べていたのだけど、10年近く前の雑誌までは手付かずだった。
私はインタビュー記事を読みたいがために、事務所の整理をこれまでの3割増しのスピードですすめた。
(所長の記事を読むのも仕事の一環ということで……)
私はオフィスルームの自席に戻り、さっそく雑誌を読み始める。昔の雑誌なのにとても新鮮で、小説を読んでいるみたいにワクワクした。
(ウチの所長はやっぱりカッコいいなぁ)
伊出さん自身はあまり乗り気なじゃないので滅多にテレビ番組には出ないけど(ラジオは好きだからよく出ている)、もっとメディア露出があってもいいのでは? と思ってしまうくらい、誌面の伊出さんも素敵だった。
「おはよう~。あれ、今日は鮫(さめ)さん一人か」
そこへ颯爽と伊出さんがご出勤された。
「おはようございます、伊出さん。はい、今日は私ひとり事務所出勤で先ほどまで資料室の整理をしておりました」
「ありがと……って、え、ちょっと、鮫さん、なに読んでるの!」
私はページを開いたまま雑誌を持ち上げ伊出さんに向ける。
「ちょっと気になる資料を目下確認中であります」
「気になる資料って……新しい情報は載ってないでしょー」
「いえ、知らなかったことも載っているのである意味新しい発見があります!」
「そう、なのかな……。それにしてもめちゃくちゃ懐かしいなぁ。まだあったんだなぁ、その頃の雑誌」
「伊出さん物持ち良いですね」
「でしょー。あ、せっかくだから、その頃の雑誌の記事を読んだ感想聞かせてよ。今後の参考にするから」
「え……わ、わかりました! きちんとレポートとして仕上げますね」
「楽しみにしてる」
「が、がんばります!」
まさかの課題を言い渡されてしまったけれど、読むこと自体は楽しいのでしっかりまとめ上げようと思います。