10月14日 今日の給食は焼きうどんだったのでしょう【今日のものがたり】
「今日の給食は焼きうどんだったのでしょうね」
「月を眺めながら言う台詞じゃないなぁ」
「月を眺めながら言う台詞があるのですか」
「夜空を眺めるのに言葉はいらないでしょう」
夜の音楽室は肖像画から飛び出した“音楽家”さんたちが生きる場所なのです。今宵もしばしの間、ご歓談と相成ります。
「それで焼きうどんっていうのはどうしてわかったの?」
「給食後の授業がここ、音楽室で行われたからですよ」
「あ~匂ってきたのね。いいよなぁ、僕たちも何か……何でも、食べられたら楽しいのにね」
「楽器が弾けるだけでも十分ではございませぬか?」
「それは、そうだけど……たまに、たまにね、もっと人間らしいことをしてみたくなるのさ」
「かつてはちゃんと人間だったではないですか。一つの生涯を終えてなお、こうして夜に甦ることができているだけでも贅沢というものではないでしょうか?」
「本来は甦ってはいけない存在“ナイトメア”だけどね」
「それは昼間を生きる人間たちがつけた名称であって、俺たちは俺たちだろ」
「でも、“ナイトメア”を浄化させる“空間カウンセラー”さんは悪い人たちではありませんよ。私たちの話をしっかり聞いてくださいますし」
「モーツァルトさんは優しすぎると思うよ」
「……ベートーヴェンくん、月光を聴かせてください」
ぽりぽりと頭をかきながらベートーヴェンがグランドピアノの前に座ります。モーツァルトには逆らえない何かがあるのかもしれません。
それでは、心地よいピアノの調べに酔いしれましょう。ただしこの音は“人である皆さん”に聞こえるわけではありません。聞こえたとしたら……空間カウンセラーになる資格がおありかもしれません。
「電車の音が聞こえてきましたね」
「え、もう?」
「いつも思うけど、こんな朝早くから動き出すなんて鉄道会社さんは毎日大変だ」
「この音が合図でもありますからありがたいですよ」
「肖像画に戻らないといけない時間、か」
「そのようですね」
「じゃ、また夜に」
「あー今夜はトイレの花子さんたち、ここまで来てくれないかなぁ、満月近いんだし」
音楽家さんたちは何事もなかったかのように肖像画のなかへ戻っていきます。そう、この音楽室では何事も起こらなかったのです。静かで平和な夜だったのです。