4月4日 あんぱんディナー【今日のものがたり】
僕は妻の里子さんとともにパン屋を営んでいる。めちゃめちゃ儲かっている、とは言えないけど、夫婦二人が生活していけるだけの収入はある。ありがたい。
業務用ではない冷蔵庫に小さなカレンダーが貼ってある。4月4日に丸印。つけたのは僕。そう、今日があんぱんの日だという印だ。
「では、ひとっ走り行ってきます」
「行ってらっしゃい。気をつけてね」
今日は年に一度のあんぱんディナーなのだ。僕が気になるあんぱんをしこたま買ってきて、あんぱんを主食に里子さんと一緒に夕食を食べる。
前もって取り置きをお願いしていたパン屋さんを巡る。今回は5軒で5種類のあんパンを買う予定だ。
「ただいまー」
「おかえり。早かったね」
「それぞれのパン屋さんへの最短ルートをチェックしておいたからね」
「戸村くん、いつのまに」
「だって、早く買って里子さんと食べたかったから」
食卓に丸いフォルムのあんぱんが並ぶ。いただく前に写真を撮る。どこかにあげるということはないのだけど、部屋には写真を飾るかもしれない。だって、あんぱんの形ってかわいいじゃない。
「あんぱんの形ってかわいいよね」
ほら! 里子さんも僕と同じ感想! 嬉しいなぁ。
「こう、真ん丸に作るって結構大変なのに……それにしても戸村くんもよく形を崩さずお持ち帰りできたね」
「そこ! 気づいてくれるなんて、さすが里子さん! もうね、その部分に細心の注意を払いつつ運びましたから」
それでいて近道もできた僕ってなかなかやるでしょ?
「ケシの実、黒ごま、白ごま、うぐいす豆、そして桜の塩漬け。パンの上に乗っているものでなかの餡を区別できるのが良いよね」
「やっぱり、うぐいすあんパンと桜あんぱんは春の香りがするね」
「僕は王道のつぶ餡いりあんぱんが気になる」
「こし餡のなめらかさも良いんだよねぇ」
「食べるのがもったいなくなる見た目だけど……」
そこで僕のお腹が盛大に鳴る。
「ふふ、戸村くんの身体は正直だね。でも、おいしそうなパンは食べてこそ、だから。食べよう!」
「だね!」
里子さんがあんぱんのひとつを手に取る。
「えっ! いきなり桜あんぱんにいくの?」
最後に取っておくかと思ったのに……。
「いただきまーす!」
まって、まって、僕も食べます!
「いただきまーす!」