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1月28日 それはきっと偽らざる逸話【今日のものがたり】

 私は人の書く字が好きだ。
 丸みを帯びていたり、角張っていたり、さらっとしていたり。字を見ているだけで一日が終わっていたりもする。
 書いているときの気持ちや、場所、道具でも字は変わる。突き詰めていったら途方もない旅になるだろう。そう、私はいつか、字をめぐっての旅がしてみたいと思っている。
 そのためにはやはりお金が必要なのである。ということで、今日もいつものように出勤する。

 私は城下町の図書館に勤めている。ここには、この国を統べる王様の側近が訪れて資料とするくらいなかなかの蔵書量だ。
 私はとある書物の管理を任されている。とある書物……私の大好きな、手で書かれた書物だ。
 字が好きすぎて、字を見ただけで誰が書いたものなのかわかるという特技のようなものがあって、私はそれでこの図書館で働くことができていると思っている。

 しかし、手がきものは紙自体も古いものであることが多く、あまり人に読まれなくなってしまっている。今や、図書館の地下の奥の奥の片隅にしまわれているようなおいやられっぷりだ。笑える話、怖い話、あの伝説勇者の知られざる逸話、みたいなものもあっておもしろいんだけどなぁ。

 本当にごくごくまれにこう言った書物をご所望される方が訪れてそのときにご案内するのが私の役目だ。ここだけの話、私、王様と一対一で話したこともあるんだ。でも、私の仕事は他言無用。他国に知られたらまずいこともあるので、仕事の話は家族にもしづらい。
 だから、ここまで読んできてくれたことは誰にも話さないでね。

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