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11月8日 いい泡いい肌いい石けん【今日のものがたり】

 出勤したらデスクに社内報がなぜか3部も置かれてあった。

「おはようございます、北山きたやまさん」

 会議室からマグカップを持った北山さんが現れた。まだどこか眠そうだったので、昨日もここに泊まったのかもしれない。

「おはよう、水戸部みとべくん」
「社内報ありがとうございます。でも、どうして3部も?」
「ああ、水戸部くんのお姉さんと妹さんが南川みなみかわのファンなんでしょう? 今回はコラムだけじゃなくて彼のインタビューも載ってるから読みたいかなって」
「それでわざわざ……ふたりとも喜ぶと思います。ありがとうございます」

 南川さんは、北山さんと僕がいるこの部署を立ち上げた方で、今は本社勤務をしている部長さんだ。北山さんとは同い年で、会社を出ればタメ口で話す仲らしい。

 そんな南川さんなのだけど、姉さんが編集している情報誌に南川さんのインタビュー記事が載って以来、妹の深景みかげがカッコいいとファンになり、よく話題に上がるようになったのだ。

 これまでは僕がもらった一冊の社内報をまわし読みしていたのだけど、今回はそれぞれが独占できるかたちになる。姉さんはそこまで感情を表に出さないけど、深景はめちゃくちゃ笑顔ではしゃぐだろうな。

 席に座り、パソコンを立ち上げつつ社内報をめくる。南川さんはコラムも書いているのだけど、インタビューが載っているということで今回はその記事から確認してみる。
 写真つきだった。うん、確かにこの人は男前だ。男の僕が見てもそう思う。しかも……

「南川さんって、肌がきれいですよね」

 そうなのだ。これまでも写真だけでなく、実際にお会いしてもこっそり思っていたのだが、僕より20歳は離れているのに肌がつやつやしているのだ。芸能人みたいに。

「水戸部くんもそこが気になったか」
「特別なお手入れをしているんですかね」

 芸能活動みたいなことはしていないはずだけど、してもおかしくないレベルだと思う。

「なんかね、石けんで洗ってるらしいよ」
「石けんですか」
「“いい泡いい肌いい石けん”って宣伝しているお肌に優しい石けんで顔を洗うようになってから調子いいみたいでね」
「“いい泡いい肌いい石けん”……」

 姉さんと深景が知ったら同じ石けんで顔を洗いそうだ。僕は洗顔料にこだわりはなかったのだけど、南川さんの写真をまじまじと見ているうちに石けんのことが気になってきてしまった。

「北山さん、その石けんの商品名とメーカーって知っていますか?」
「そう来ると思ってね、聞いておいたんだよ、南川に」
「え……なんだか、すみません。ありがとうございます」
「肌の調子が良くなると鏡を見るのも楽しくなるしね」

 そう言いながら北山さんが鏡を見ながら顎のあたりをさすっている。もしかして、北山さんもその石けんを……?

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