6月6日 楽器はラッキーを運んで【今日のものがたり】
「ラッキーアイテムは……クラシックギター? そんな楽器、身近にないんだけど」
朝の情報番組で俺は占いを確認してしまうタイプである。今年の元日が最下位だったことを今でも覚えているくらい、結構気にするタイプでもある。
しかし、例えば「今日はおしゃべりがすぎるとボロが出てしまうかも」というあまり良くない内容だった場合、今日はなるべく話さなければOKってことでしょと考えることもある。占いを信じる信じないは受け取った人の自由だと俺は思っている。
なんて、とある占い師さんのサイン本を持っているくせに考えが自由すぎるかな?
それにしても、今日のクラシックギターはなんだか気になる。学校の音楽室にあったかなぁ? 楽器を保管してある準備室って勝手に入ったらやっぱりまずいよな。
ところでラッキーアイテムって、それがあったら何がラッキーなんだっけ? 良いことが起こるってこと? それとも占いの結果が少し上方修正されるってこと? でも、一位の星座にもラッキーアイテムってあるよなぁ。すでに一位なのにそこにラッキーアイテムって無敵じゃんか。最下位の星座はどうあがいても勝ち目ないじゃん。いや別に、勝ち負けの問題じゃないか。
「諏訪(すわ)くん、どうしたの? 難しい推理問題でも考えてた?」
「そうだな、ある意味推理問題だったかもしれない」
「え、ごめんね。思考の途中に話しかけちゃって」
「いや、むしろ助かったわ。なんか妙なところに考えが着地しそうだったから」
「そっか。なら良かった」
話しかけてきたのは、ちょっと前に探偵小説のことで話して以来、ちょいちょい話すようになった大牧(おおまき)だった。なんだろ、大牧の話しかけてくるタイミングって結構絶妙だな。
「そうだ。なあ、大牧。音楽準備室にクラシックギターがあるかどうかって知ってるか?」
「ク、クラシックギター? 準備室にあるかどうかはわからないけど、僕の家にはあるよ」
「えっマジで?! なんで?」
「……興味が、あって……」
これは、大牧の家にお邪魔してクラシックギターを見せてもらうべきだろうか。それとも、あるという事実を知っただけでもラッキーアイテムに出会ったとカウントして大丈夫だろうか。
「大牧はクラシックギターでなんか曲とか弾いたりするのか?」
「うん。今は『アネモス』っていうバンドの曲を絶賛練習中。彼らはクラシックギターをよく弾いてるバンドで……」
「……アネモス……どっかで聞いたことがあるぞ……なんかちょっと前にヒットした……冬の日のなんとかって──」
「それ、『冬の日の帰り道』! 僕が練習している曲。冬までにはしっかり弾けるようになりたいなって思ってて。諏訪くん、アネモス聴いたことあるんだ。うれしいな」
「思い出したよ。そうか、あれ、クラシックギターだったのか」
確か家にCDがあったような気がするぞ……。
「でも諏訪くん、どうしてクラシックギターが気になったの?」
「いや、朝の占いで俺の星座のラッキーアイテムがクラシックギターだったんだよ。そんなの身近にないなって思ってたんだけど……」
「へぇ。諏訪くん、占いチェックするんだ」
「まぁな。信じたり信じなかったりだけど」
「僕も、雑誌に載ってるのとかつい読んじゃうんだよね」
なんだと。大牧も占い欄を読むのか。これはもう少しつっこんだ話ができそうだな。
クラシックギターがラッキーアイテム……なるほど、このワクワクは確かにラッキーかもしれないな。