1月25日 ホットケーキと私の夢【今日のものがたり】
私は小さい頃、よく泣いていた。
魔法が全然覚えられなくて、呪文を唱えてもうまく使えなくて、よくバカにされていたからだ。でも、魔法の勉強は嫌いじゃなかった。伝説の大魔法使いに憧れていたから。夢だった。私もいろんな魔法を使って、世界中を旅してみたいと思っていた。
「そういうすてきな夢があるんだから、これを食べてパワーつけて明日からまたがんばりな」
励ましてくれたのは、いろんな人たちがやってきてご飯を食べたり、お酒を飲んだりする大きなお店を切り盛りしていた女将さんだ。
「はい、特製のホットケーキ、召し上がれ」
それはすごく魅力的な食べ物だった。ふわっふわで一口ほおばるだけで本当にパワーがみなぎるというか、魔法力が強くなっているんじゃないかと思うくらい、おいしかった。
「泣きながら食べたらしょっぱくなるよ」
「だ、だいじょうぶ……おいしいもん」
「ふふ、ありがとう」
ホットケーキを食べながらも私はよく泣いていた。おいしくて嬉しくて、いつも心が温かくなって、それで自然に涙が流れた。ホットケーキを食べているときだけは悲しみは消えていた。私にとって忘れられない、特別な食べ物。
「はい、特製のホットケーキ召し上がれ」
大人になった私は毎日のようにホットケーキを焼いている。私のお店に来てくれる旅人や商人、そして、かつての私にとてもよく似た魔法使いの卵に。
私の夢は今でも大魔法使いになること。ホットケーキも焼ける偉大な大魔法使いになることだ。
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