9月6日　今日は9月6日だから……くろ……【今日のものがたり】

　覚悟はしていた。
　だからというわけではないけど、いつもより髪のセットには力が入った。

「じゃ……今日は9月6日だから……黒崎くろさき！」

「今日は9月6日か。じゃあ黒崎くん──」

「今日の日付は……6日か。9月6日で……黒崎だな」

「今日は……」

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　飯だ、飯！
　家から持ってきた弁当だけじゃ絶対に足りない！　購買部で何か買ってこよう。

「黒崎くん！」

　教室を出たところで呼び止められた。今の俺に話しかけるなんて誰……って、中道なかみちか。前にチョコレート専門店でばったり出会ってから話すようになったんだよな。

「な、なに？」
「ごめんね。いきなり呼んじゃって。でも、これから購買部に行こうとしてたでしょ」
「そうだけど、なんでわかったの？」
「だって……今日の黒崎くん、めちゃくちゃ大変そうだったから」
「え……」
「今日が9月6日で“くろ”ってなるから黒崎くんばかり当てられたでしょ」
「気づいてくれてたのか」
「いや、だって、1限から4限までずっとだったじゃん。4限目のときなんて先生が『今日は』って言った時点でみんな笑いそうになってたし」
「笑いそうっていうか、笑ってたよな」 
 
　俺も名前を呼ばれる前に「はい」って言いそうになったし。 

「ごめんね、私も笑っちゃった。でも黒崎くん、当てられても全部しっかり答えてたし、読むのも上手だったから、すごいなって思って」
「そ、そうかよ」
「えと、だから、今日は私がおごるよ！」
「おごる？」
「めっちゃがんばってた黒崎くんに。購買部に売っているパンとかサンドイッチとかそのぐらいだけど」
「……いいのか？」
「いいよ！ それに今日はほら、戸村とむらベーカリーさんのチョココロネとかあるはずだし」
「それ、食べたい！」
「OK！　買いに行こう！」

　9月6日もそんなに悪い日ではないのかもしれない。