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3月31日 山菜と魔物【今日のものがたり】
「頭を抱えてしゃがんで!」
わたしはポケットに入れておいたものを取り出し、目の前の魔物めがけて投げつける。うまくいけば……。
魔物の悲鳴がこだまする。戦意喪失。よし、もう大丈夫だ。
「ケガはない?」
私の言葉通りにちゃんと頭を抱えてしゃがんでくれた女の子に声をかける。この子が立ったままでも魔物めがけて投げることはできたけど、コントロールにいまいち自信がなかったから、当てる不安をなくすためにしゃがんでもらったのだ。
「ど、どこも痛くないです……」
「そう。良かった」
私は同じようにしゃがんで女の子に笑顔を見せる。魔物はまだ近くにいるけど、もう鳴いていないし、動きも鈍いのでしばらくそのままでも問題ない。
「あ、あの、ありがとうございました」
「どういたしまして」
「あなたは魔法使いなのですね」
「厳密にはまだ卵だけどね」
「えっ、でも今、魔物めがけて投げたものって魔道具ですよね? すごい力がある魔道具だと思います」
ねばねばした網状の液体が別の何かと交わることでより強力になり、動きを封じ込める。そう、私の作った魔道具、なんだけど……。
「え、え、本当にそう思う?」
私の声が大きく、さらに顔を近づけすぎてしまったのか、女の子が少し身を引いてしまった。
「ごめん。そう、今のは魔道具なんだけど、うん、すごい力があるように見えたのなら、すごく嬉しいなって思って」
こんなふうに面と向かって魔道具をほめてもらえるなんて……あの人だけじゃないんだ。
ああ、作ってきて良かった!
「すごいと思います! あの、私は今日、ここへは山菜を取りに来たんです。このあたりにおいしい山菜があると聞いたので」
「うん、確かにおいしい」
ゆえにそれを食料としている魔物も増えてしまっているんだけど。
「ひとりで来たの?」
「はい。このところ魔物は少なくなっていると聞いたので、ひとりでも大丈夫だろうと」
「少なくなってるってどこ情報?」
「町の人たちがそんな話をしていて……違うんですか?」
「正直な話をすると、むしろ増えているんだよね」
「えー! でも、そうですよね。町にいたら魔物なんてまず見ないから、増えたか減ったかなんて本来わからないですよね」
この子は結構冷静な分析ができるのかしら。町のことも知りたいし、私の家でもう少し話をしてみたい。
「ねぇ、今から私の家に来ない? あの魔物は丸焼きにして山菜と一緒に食べるとすごくおいしいのよ」
「……え?」