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10月28日 プレスリリースで見た名前は【今日のものがたり】

氷口ひぐち、今日は雨だけど出かけないんだ」

 トレーニングルームで身体を動かしていたら冬木ふゆきさんがやってきた。タブレット端末で見ていたネットのニュース記事に載っている選手と同じ人だ。昨夜冬木さんは猛打賞の活躍で勝利に貢献し、ヒーローインタビューを受けている。

「おはようございます、冬木さん」

 僕が雨の日にわざわざ出かけることを知っている……やはりこの人は僕みたいな駆け出しの選手のこともしっかり“見ている”。見てくれている、と言ったほうがいいのかもしれない。

「雷もなっていますしね。しばらくはここでトレーニングしてます」
「氷口はネットの記事を読むんだな」

 冬木さんが僕のタブレットにチラッと視線を向ける。

「……読みますね。野球のことだけでなく、いろんな話題をさらっと見るだけですけど」
「じゃあさ、なんかおすすめの映画とかない?」
「映画、ですか?」

 ふと、雨の日に出会った俳優さんのことを思いだした。あの人の出てる映画ならまず間違いない。でも、冬木さんが好きそうな映画かというと……どうだろう。冬木さんの好みを先に聞くべきかな。

「……おもしろそうな映画だな。12月公開か」

 僕が答えあぐねていると、冬木さんが僕のタブレットを操作して別の記事ページを開いていた。
 そこは映画情報サイトのようで、冬木さんが気になったのは……

「──えっ!」

 僕は思わず両手でタブレットをつかんでしまった。

「氷口もそんなふうに驚いたりするんだな。普段は結構冷静なのに」
「いや、それは、まぁ、驚くこともありますよ」

 びっくりした。その新作映画の主演が僕の思い浮かべていた俳優さんだったからだ。海で出会ったころは撮影をしていたのだろうか。
 主演か……やっぱりすごい人なんだな……僕も、がんばらないと。

「12月はオフだし、一緒に見に行くか、氷口」
「え、冬木さんと2人でですか?」
「なんだ、いやなのか?」
「いやではないですよ。冬木さんって映画を見るイメージがなかったので、誘っていただけるとは思ってなかっただけです」
「俺にどんなイメージいだいてんだ」
「24時間野球のことを考えているイメージです」
「……褒め言葉として受け取っておこう」
「そうしてくださると僕も嬉しいです」

 冬木さんが僕の頭をこづいてくる。もちろん、あくまでもやさしく。おしゃべりはここまで。ここからはそれぞれのトレーニングに集中する。

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