9月1日 キウイと宝くじ 藤川side【今日のものがたり】
私は電話をかける理由を考えた。嘘はつきたくない。本当のことを話して終わりにする。
何度もかけようとしてはためらい、そのたび上司につつかれている。時間は待ってはくれない。でも、覚悟を決めるというのは簡単なことじゃない。
「……宝くじ……」
そうだ。夏と冬にだけ買っている宝くじ。これで、いこう。
つばを飲み込む。市外局番は省略してもいいのに、わざわざそこからボタンを押した。相手はワンコールで出た。早いよ。
『お電話ありがとうございます。お客様に幸せ届けて年中無休、神様株式会社営業部貧乏課、鷹野でございます』
「もしもし……私、藤川マイコと申します──」
もう運命は変えられない。
* * *
始まりはキウイフルーツだった。お互い好きで、キウイパフェなるおいしいスイーツがあると聞いて、少しばかり遠出をした。
「おいしいですね、このキウイパフェ」
鷹野さんはニコニコ笑顔でパフェを頬張っている。
白タキシード姿。まるで新郎だ。でもこれが、鷹野さんの働く会社の制服なのだ。営業部貧乏課の。
そんな彼に私は依頼をした。宝くじが当たったことで生まれた不安を払拭したいという理由で、いろいろな町を巡る予定になっている。鷹野さんの仕事は主に人探しだ。私がお願いした人がどこにいるのか探してもらう。貧乏とは関係ないのだけど、鷹野さんは私の依頼を断らない自信だけはあった。
このあとは粘土にまつわる謝罪だ。小学生の頃、大事な友だちが作った粘土作品を誤って壊してしまった。でも、今さらその話題を出してもきっと彼女は覚えていない。だから、別の話から自然と謝罪できないかと考えたのだ。鷹野さんには私と一緒に行動していると悟られない、絶妙な距離で待機してもらった。
人に会うだけでなく、海にも行った。心を空っぽにできる素敵な海だ。鷹野さんは黙ってそばにいてくれた。そうしてほしくてここへ来たから願いは叶ったことになる。
締めくくりはカフェ。
鷹野さんはコーヒーを注文した。ミルクもシュガーも入れない。完全なブラックだ。
「藤川さんはコーヒーフロートなんですね」
「アイス、おいしいでしょ」
「ブラックが苦手だから、ですよね」
神様株式会社のリサーチ力は確かだった。私は真実を話さねばならない。
「どうして、藤川さんが僕にこんな依頼をしてきたのか、ずっと不思議だったんです。でも、今──」
そう、昔からそうやって寂しそうに笑う人だった。だから、電話なんてかけたくなかった。
これが、誰かの物語だとしたら、このままエンドマークなんてつけず、途切れてしまえばいいのに。
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