4月20日 RN.コーヒー牛乳といちごジャムのパン【今日のものがたり】
お昼休み。
私は今日のお昼ご飯を買いに購買部へ急いでいた。目当てはコーヒー牛乳とイチゴジャムのパン。まだあるといいのだけど……。
「あ……」
「あった!」
ばちっと手が当たった。ゴツい手だった。だ、誰?
私と同じいちごジャムのパンを買おうとしたのは。
「あ、わりぃ。痛くなかった?」
「だ、大丈夫」
本当はちょっと痛かったけど、同じクラスの清永 大記(きよなが だいき)だとわかって驚きのほうが大きくてそう言ってしまった。
「なんだ、山上(やまがみ)だったのか」
なんだとはなんだ、と思ったけど、清永が右手に持っている飲み物を見て、思うだけにとどめた。
「山上もいちごジャムのパン目当てか」
「清永、そのコーヒー牛乳好きなの?」
「ん? ああ、これはちょっとな」
ちょっととはなんだろう。ここは少し深入りしたい。なぜなら私の左手にも……
「お? なんだ、山上も同じコーヒー牛乳か」
そう、つまりはこのお昼休み、偶然にも清永と私は同じいちごジャムのパンと同じコーヒー牛乳をチョイスしたということだ。偶然にも? と思ってしまうところだけど、私がこの二つを選んだのには理由がある。
「ねぇ、もしかして昨日の夜、ラジオ聴いてた?」
私はその理由につながる問いかけを清永にする。ラジオ、という単語に清永が反応したような気がした。
「まさか……山上、あのラジオドラマ聴いたのか」
「……やっぱり!」
これはまさかの展開だ。清永が? でも、聴いていてもおかしいということはない。私はもっと深入りしたくなる。
「待て待て。ここで立ち話もなんだから座れるところへ行こうぜ」
深入りしたくなったのは私だけではなかったようだ。
「う、うん」
私たちはジャムパンとコーヒー牛乳を買って、生徒玄関を出て少し脇へ行ったところにあるベンチに腰を下ろした。
「いっただきまーす」
話を始めるのかと思ったら、清永はいきなりジャムパンを頬張った。続けてコーヒー牛乳もごくごく飲む。うん、実にいい、食べっぷりと飲みっぷりだ。まるで昨日の……
「清永がジャムパンとコーヒー牛乳を選んだのは、今みたいに『昨日のラジオドラマと同じことをしたかったから』でしょ?」
「せいかーい!」
「ラジオで音だけだったのに、すっごくおいしそうに聴こえたよね」
「刑事の張り込み中っていうパンと牛乳が出てくる王道シーンだったのにな」
「ね。刑事さんの声も素敵だったなぁ。私たちがこうやって翌日、似たようなことしたくなるくらいに」
「全国でどのぐらいの人が同じことをしているのか……調べたいくらいだぜ」
「あはは。でも、同じクラスであの時間にあのラジオドラマ聴いている人がいるなんてびっくり」
「俺、結構ラジオ好きなんだよ。メールとかも時々送ってるくらい」
「へぇ~! 私はまだ送ったことないんだけど、今度送ってみようかな」
「じゃあ、俺がわかるようなラジオネームにしてよ」
「え、ラジオネーム……そうか、そうだよね、それを考えないとだよね」
私は手にしているコーヒー牛乳といちごジャムのパンを見つめる。うん、やっぱりこれしかない。ラジオネームは……
「『コーヒー牛乳といちごジャムのパン』!」