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11月15日 着物を着た彼女は【今日のものがたり】
僕が待ち合わせ場所に着くと、七海さんはベンチに座って本を読んでいた。紅葉柄の文庫カバーをつけている。僕が作ってプレゼントしたものだ。僕に気づいていない七海さんは本に集中している。
綺麗だな。
僕たちが大人になってもこうやって休日にお互い着物を着て公園でゆっくりできたら幸せだろうなぁ。七海さんの穏やかな横顔を見て思う。読書を遮るのはいつも少しためらうのだけど、待ち合わせの時間ちょうどなので、僕はゆっくり歩いていって呼びかける。
「七海さん、おはようございます」
少しだけ目を見開いて、こちらを見てすぐに破顔する。そのときいつもかわいいなって思ってしまう。七海さんのほうが年上なんだけど。
「遥くん、おはよう」
「文庫カバー、使って下さってありがとうございま……けほっ」
言い切る前に小さな咳が出てしまった。空気がちょっと乾燥しているのかもしれない。
「遥くん、はいこれ」
七海さんが差し出してきたのはのど飴だった。パッケージにひんやりパウダーと書かれてある。
「ありがとうございます、いただきます」
「新商品らしいよ。この間コンビニで見つけたの。あ、ブルーベリー味、大丈夫だよね?」
「ブルーベリーは好きです。あの、七海さん、のど飴持ち歩いているんですか?」
「んーのど飴だから、というよりかはおいしかったから、かな。他にもミルク味の飴とか、一口チョコもあるよ、ほら」
そういってジッパー袋ごとバッグから取り出して見せてくれた。
「小腹が減ったなーってときに結構重宝するんだよね」
「七海さんも小腹が減るんですね」
「もちろん、減るよー。それに遥くん、私が食べること好きなの知ってるのでしょ」
「それは、はい」
その、おいしそうに食べている七海さんを見ることが僕はすごく好きで、とても楽しい。誰かと食べることをそう思えるようになったのは七海さんのおかげだと思っている。
「でしょー? だからこういうおやつは必需品なの。話してたらチョコが食べたくなっちゃった」
一口チョコをほおばる七海さんを見つめていたら、僕はなんだか七海さんを抱きしめたい気分になってしまった。でも、いきなりそんなことしたら驚かれるし、チョコを食べているときにそんなことはできない。だから僕は七海さんから少しだけ視線をはずして手に持ったままだったのど飴を見つめる。