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9月29日 招き猫はどこに?【今日のものがたり】

 みなさま、いかがお過ごしでしょうか。こちらはとある学校の理科準備室です。いつものようにパトロールを開始したいと思います。中身が落っこちないように気をつけて、と……。

 ただいま時刻は2時22分。にゃんにゃんにゃん、草木も眠る丑三つ時でございます。でも、僕たちは眠りません。一番動きやすい時間だからです。

 学校内には僕みたいにどこでも行けちゃう“人”……厳密には人じゃないけど、だいたい人に見えるから便宜上“人”って表現しますね。僕もいろいろ見えてますけど人に見えますので。
 基本的にはみんなそれぞれの住み処がありまして、そこからあまり出ることはありません。出てはいけないというわけではありませんが、出るなら満月の日が一番良いと思います。

「……うわぁっ!」

 な、なな、なんか今、外の花壇のところで満月みたいな丸い光が……!

「なんだ、猫か……」

 走り去っていく猫に僕は勘弁してよとつぶやきました。2時22分のことを“にゃんにゃんにゃん”なんてふざけた表現したのがまずかったのでしょうか。

 そう、ここだけの話、にゃんにゃんにゃんと言っておきながら僕は猫が苦手です。

 みんなさ、猫はかわいいっていうじゃないですか。僕は……少し怖いのです。だって、目が光るんですよ? 今みたいに。めっちゃビビるでしょう。
 僕は思うのです。かわいいというだけで信じてはいけないと。そのかわいさの奥に隠された真実を見抜かないと痛い目を見ると……。

「痛い目を見るって……かわいいだれかに臓物で爪とぎでもされた?」

「ちょ、花子はなこ姉さん! 驚かさないで下さいよ」

 しかもさりげなく僕の心を読んでますし。

「それと、ゴホン。臓物なんて表現が直球すぎます。もうちょっとオブラートに包んでください。僕はこう見えても全年齢対応でいきたいんですから」

 花子姉さんはトイレに出る超有名な“あの”花子さんです。ね? 超有名って納得でしょう? しかもとても綺麗で美しい。そんな人が臓物なんて単語、ホラーになってしまいます。それは避けねばなりません。夜は決してホラーな時間というわけではないのですから。

「でも、花子姉さんがこの時間に廊下を歩いているなんてめずらしいですね」
「音楽室から聞こえる優雅な調べとは違う妙なおとがしたものだから、出てきてみたのよ」
「僕の心配をしてくれたということですか」
「そう思いたかったら思っていいけど」
「では、そういうことにしておきます。ありがとうございます、花子姉さん」

 僕の声のことを音って言ったような気がするけど、まぁいいです。優しい花子姉さんがそばにいてくれれば怖いものはありませんから。

人体模型あなたのことだから、おおよそ外にいる猫の目が光ってビビったのでしょうけど、つい最近、校内に招き猫が置かれたことには気づいているかしら?」
「……はい?」

 花子姉さんが僕の叫び声の原因をピタリ言い当てたことと、その後の聞き捨てならない情報に僕は臓物を落としそうになってしまいました。

「校内ってどこですか?」
「保健室」
「なぜ?」
「保健室のたもつちゃんにでも聞いてみる?」
「え……保がらみなんですか……」

 保ちゃんとは保健室の先生が作成している“保健室だより”に描かれてあるキャラクターのことなんですが……あいつ、ちょっといけすかないんですよねー……。 

「私はこの間の満月の日にちょっと覗かせてもらったのだけど招き猫は赤色だったわ」
「赤? 普通の白じゃないんですか」
「赤色の招き猫は“無病息災”を意味するみたい。可愛かったわよ」
「その招き猫が僕たちみたいに心を持つ日も……」
「近いでしょうね」
「そんなぁ」

 夜の校内は安全だと思っていたのに……。仲良くやっていけるのか少し不安な午前3時です……。

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