6月19日 朗読の声は【今日のものがたり】
『ラジオネーム“コーヒー牛乳といちごジャムのパン”さん、リクエストありがとう。では、お聴きください。アネモスで“雨あがりの紫陽花通り”』
「……マジかよ!」
いつも聴いているラジオ番組からまさかのラジオネームが聞こえてきて俺は思わずツッこんでしまった。
(ラジオネーム……コーヒー牛乳といちごジャ
ムのパン……山上(やまがみ)だよな、ほぼ間違いなく)
リクエストが採用されたじゃんってメールで言おうかと思ったが、あいつもこのラジオを聴いているはずだから、うん、その邪魔はしたくない。明日の昼休みに聞いてみるか。
ところでアネモスってどんなグループだったっけ? 雨あがりの紫陽花通りか……なんて考えている間にもその曲は流れ続けていたわけで、俺は序盤を聞き逃したみたいになってしまった。すまん、山上。なんとなく謝る。
翌日の昼休み。山上が購買部で買い物し終えたところで俺は声をかけた。
「山上。昨日もラジオ聴いてたか?」
「うん! あの朗読のコーナーすっごく良かったよね! めっちゃ癒されたよ。心地よすぎてそのまま寝落ちしちゃったくらい」
「はぁ? 山上、じゃあ、あのあと聴いてないのか?」
「う、うん……なんか、あった?」
様子が変だとは思ったんだよ。朝教室へ入ってきたときもいつもと変わらない「おはよう」だったからな。昨夜、リクエストが採用された人には見えなかったんだよ。
「おいおい……」
「え、でも、朗読はホントに素敵だったよ。ほら、あのラジオドラマで刑事役やってた人だったし、なんだろあの人の声ってα波っていうの? それが出てると思うんだよね」
山上が必死で言い訳みたいなことを言っているが……確かに、言っていることは正しいと思う。あの人の声は俺にとってもいい声で癒されたし、また聞きたいと思う。しかし、昨日に限ってはだな……
「山上、リクエストしただろう? えーと、アネモスの“雨あがりの紫陽花通り”って曲」
そのタイトルを聞いた瞬間、山上の目が見開かれ、がしっと俺の腕までつかんできた。おう、結構力あるな、山上。
「えっ、えっ、ちょ、もしかして、私のリクエストが?」
「そうだよ。ラジオネーム“コーヒー牛乳といちごジャムのパン”さん」
「それ!! わたし!!」
「だよな。俺も、めっちゃビックリしてさ、ホントにこの名前にしたんだっていうのと、採用されてる! っていう二重の驚き」
山上が全身でうなだれる。それは俺の腕から山上の手が離れたということだが、掴まれたところの感触が見事に残っている。腕相撲強そうだな、山上。
「ああ~なんで昨日の私、寝落ちしちゃったかなー」
「今も聞こうと思えば聞き返せるけど……」
「そうだけど……あのリアルタイムで聞くっていうのがラジオの良さでもあって……ああ……」
山上の気持ちはわからんでもない。生放送の番組でリクエスト送って、採用されたらめっちゃテンションあがるもんなー。
「ま、これに懲りずに、またリクエスト送ろうぜ。山上のラジオネームならDJの人も覚えてくれそうだし」
「だといいな。あ、清永(きよなが)のラジオネームはなんて言うの?」
「ひみつ」
「ええー」
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