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5月5日 未来をつくる【今日のものがたり】

 わたしとお兄ちゃんはここで未来をつくっている。
 
 未来はしゃぼん玉の中にある。わたしとお兄ちゃんの二人でしゃぼん玉になる液体をつくってふくらませて、そうすると未来ができる。しゃぼん玉はここへやってきた人にだけあげることができる。ここへ来るにはどうすればいいのか? それはわたしにはわからない。

 お兄ちゃんが言うには、迷いに迷うと迷い込む場所なんだって。迷いに迷わないとたどりつけない。そういう人は未来に悩んでいる。だからここでわたしたちがつくった未来をあげる。しゃぼん玉の未来がぱしゃんってその人の頭の上で割れて未来がその人の中に入っていく。そうして未来がつくられてその人はここを出ていく。また、迷いに迷うまでここには来ない。

 未来をつくっているけど、どんな未来かはわからない。それを知ったらだめなんだって。人の未来は誰にもわからないはずのものだから。でも、それじゃあどうやって未来をつくっているのかって思うよね。ここだけの話だけど、リサイクルしているんだ。捨てられた本とかおもちゃとかいろんなものをおなべに入れてぐつぐつ煮こむ。透明になるまでぐつぐつぐつぐつ。他にすることがないから、しゃぼん玉になる液体はたくさんできる。

「こんなにいらないんじゃないかな」ってお兄ちゃんに言ったら「人は結構悩んで迷うから多すぎるということはないんだ」って。なんかちょっぴり切なくなっちゃった。でも、そうかもしれないって最近思う。わたしにもお兄ちゃんに言えない悩みがあるから。このまま悩んで迷い続けたらどうなってしまうだろう。

「留守番よろしくな」
 お兄ちゃんはわたしをここに残して、ひとりで出かけることがある。しゃぼん玉になる前のものを見つけてくるためだ。わたしがひとりになる唯一の時間。

「……」
 だめだ、ひとりになるとやっぱり考えちゃう。わたしはどうしてお兄ちゃんと二人でここで未来をつくっているんだろう。そもそもお兄ちゃんって誰なんだろう?
 お兄ちゃんって呼んでいるんだけど、確かにお兄ちゃんなんだけど、でも、お兄ちゃんって何?
 わたしって誰?

「ちょっとだけ外に出よ」
 お兄ちゃんが帰ってくるまでにここへ戻ってくれば大丈夫。ほんのちょっと家のまわりを散歩してくるだけ。外の空気を吸えば気持ちもすっきりするはず。
 扉を開けるとき、何かがはじけるような音がしたけど、私はかまわず外へ出た。迷子にならないよう、わたしはまっすぐ歩く。そうすれば家にも迷わず帰れる。しばらく歩いていたら、小さな家が見えてきた。初めて見つけた家なのにどうしても気になってわたしは扉をノックする。

「どうぞ」

 聞き覚えのある声がした。わたしはゆっくり扉を開ける。

「こら、留守番よろしくって言ったのに、どこへ行ってたんだ?」
「お兄ちゃん!」
「おかえり。あんまり心配させるなよ」 
「ごめんなさい」
「謝らなくてもいいよ。そのかわり、今日もいっぱい見つけてきたから、たくさん作るぞ」

 そうだ。
 わたしはここで、お兄ちゃんと未来をつくっている。


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