第26球 兄弟でプロ野球選手 兄編

 皆さま、こんにちは。福岡ファルコンズの捕手、白鳥 洋一(しらとり よういち)です。
 弟の昭洋からの指名で、今回のエッセイは僕が担当します。弟からの指名というとなんだかこそばゆい感じがしますが、弟が出てきたのなら次は兄視点も知りたいよなと、エッセイを読んでいたら僕でも思います。ということで兄視点いってみます。
 
 昭洋のエッセイを読みましたが……恥ずかしいですね。なんだか僕がすごくできた人みたいな感じがして、本当に僕のことを書いているのかな? と思ってしまうくらいでした。でも、昭洋の気持ちを改めて知ることができて、僕としてもうれしいエッセイでした。

 僕は昭洋が生まれる前から野球をやっていました。父とのキャッチボールで、父がキャッチャーのようにしゃがんでグラブを構えてくれて、そこに投げ込むのが本当に好きでした。あの頃はよくわかっていませんでしたが、今思うと、父はキャッチングが上手で、キャッチャー用のミットじゃないのに、グラブにボールがおさまるいい音を聞かせてくれていたんだなと、ありがたい気持ちになります。

 そんなあるとき、僕に弟か妹ができると知りました。お兄ちゃんになる、という感覚はもちろん初めてでワクワクしました。でも、どういうものなのかはまったくわからなかったので、学校の友達ですでに兄だったクラスメイトがいて、その子に兄貴ってどんな感じなの? って聞いたりして、兄貴になる準備を僕なりにしていました。

 その中でも一番は、カッコいい兄貴でいること。それだけは譲れませんでした。お兄ちゃんってすごい! と思ってもらえるように、勉強も運動も頑張りました。
 そうして昭洋が生まれて、僕は兄になりました。生まれたばかりのころは本当に小さくて、こんなこというと怒られるかもしれないけど、すごくかわいくて、女の子みたいだなと思いました。今では僕より背が高くなっちゃったんですけどね……。体重は僕のほうがあるけど。

 そんなわけで、かわいい弟に野球でカッコいいところを見せたいと思うのは兄の僕にとってはごくごく自然なことでした。父が僕にしてくれたように、僕がキャッチャー役になってボールを受けたり、僕なりにアドバイスしたり。口だけじゃなく、実際にできないと説得力ないよなと、練習でも試合でも、弟がいなかった頃にはなかった“弟に恥じないプレーをしよう”という気持ちが新たに芽生え、僕はより野球に打ち込むようになりました。

 僕は、昭洋がいたからずっと野球を続けていられたし、こうしてプロ野球選手になれたと思っています。たぶん、ひとりだったらどこかで怠けて、もういいやってなっていたんじゃないかな。「兄ちゃん、すごい」は僕をいつでも奮い立たせてくれる魔法の言葉でした。でした、じゃないな。今でもそうです。

 昭洋は子供のころは華奢で体力もそこそこでしたが、投球フォームや球筋がとても綺麗で、これはずっと続けてくれたらプロになれるんじゃないだろうかと思っていました。思っていたのは僕がまだ高校生の頃です。そうです、僕自身まだプロ野球選手になっていない頃です。でも、俺もプロを目指すからおまえもプロを目指せよなんて、勝手なこと、言えないじゃないですか。しかも相手はまだ小学生です。しかも自分だって、プロが約束されていたわけでもないのに。

 このことは誰にも話していません。今、初めて文字にしました。話して、変なプレッシャーを与えるのは良くないし、僕はプロになりたかったけど、昭洋がプロになりたいと思っているかはわからなかったし、将来やりたいことを決めるのは彼自身なので、とにかくまずは自分がプロになろうとそれだけ考えるようにしました。

 そうして今、僕と昭洋は兄弟でプロ野球選手という日々を過ごしています。心のどこかでそうなったらいいなと思っていたことが叶ったあの日、僕はこっそりガッツポーズしました。入団したチームは違いますが、やはり毎日昭洋の結果は気になります。昭洋が初めて一軍に昇格して投げた日は僕も試合に出ていて、終わったら僕のことではなくて、弟のことでメールやら着信やら、メッセージがたくさん届いていて、それで初登板を知った感じでした。その日に僕もすぐ、弟に連絡しました。昭洋は、ガチガチに緊張していてよく覚えていないと言っていましたが、そのときの映像を見て、しっかり腕も振れていたし、コントロールも良かったし、きっちり抑えていたし、文句なしのデビュー登板だったと思います。

 と、ここまで書いてきましたが、なんだか、兄弟でほめ合ってて、ホントにおまえら仲いいのかよ? と、疑う方も出てきそうなエッセイになってしまったような気がします。でもこれが、文章だからこそ書けた本音です。それに、兄弟仲がドロドロしてたらたぶん、エッセイの依頼自体こないと思うので……(苦笑)。
 
 昭洋が僕と対戦したら抑えると書いていましたが、もちろん僕は打ちます。そこはキャッチャーらしく配球を考えていきますよ。お互いが長い期間一軍の舞台で戦えるよう、オフもしっかり準備して来季につなげていきたいと思います。

 それでは、次回のエッセイもお楽しみに。
 福岡ファルコンズの白鳥洋一でした。

◇白鳥洋一プロフィール◇
福岡ファルコンズの捕手として今季全143試合に出場。月間MVP(5月)、交流戦MVP、ベストナイン、ゴールデングラブ受賞と多くのタイトルを獲得。来季も全試合出場を目標とし、届かなかったリーグ優勝・日本一奪取を誓う。

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