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6月9日 幸せのカギ【今日のものがたり】
「ドリスコルさん、しばらくおひとりでも大丈夫ですか?」
ベッドで横になっているドリスコルさんに話しかける。
「大丈夫だ……ここで眠らせていただくから……」
ドリスコルさんの声がかすれている。やはり、きちんと摂取しないといけないんだ……。
「あの、本当の本当に必要なときは私の『血』でよかったら少しだけですけど、差し上げることはできますから」
「……何を言っている。あなたに、そんなことはさせない……」
ドリスコルさんが起きあがりそうになったので、私はそれを手で制してとどめる。
(今日は朝から何も口にしていないんだよね……)
ドリスコルさんはパンやたまご焼きといった定番食品を食べても、完全に体力が戻ることはない。『血』を絶対の主食とする吸血鬼。でも、わけあって、その血を常時口にできない。
「横になっていて下さい。すぐ戻ってきますので」
そのときドリスコルさんの胸元がきらりと光った。
服の隙間から見えたのは、鍵の形をしたペンダントだった。
「すてきな形のペンダントですね」
「……ああ、これか……これは、私の家の鍵だ……」
「それは大事な鍵ですね。持ち手のところがクローバー型になっているのがなんだか意外です」
「……そうか……?」
「はい。……すみません、意外なんて失礼なことを言ってしまいました」
「……いや……」
「クローバーはとある国では幸せの象徴という話を聞いたことがあります。珍しい植物ですものね。私も見たのはお城の中で……」
そこまで話して私は、ドリスコルさんに無理をさせていることに気づいた。
「ごめんなさい。横になっていて下さいって言っておきながら話してしまって」
「……いや、私はかまわない……」
ドリスコルさんはいつも優しい。吸血鬼さんってどこか冷たくて、無口で、何を考えているかわからないってイメージだったのだけど……。
(って私、吸血鬼さんに偏見持ちすぎでしょ……)
よし、お城へパンの配達を終えたら、ドリスコルさんのお口に合いそうな食べ物を買って帰ろう。そして、パパとママが作ったパンと一緒に食べてもらえれば……。
すてきな鍵を見たことで、私は俄然やる気になった。クローバーは幸せの象徴、もしかしたら本当にそうなのかもしれない。