9月2日 キウイと宝くじ 鷹野side【今日のものがたり】
それは、とても不思議な依頼だった。
“宝くじに当たったから、罰が当たらないよう謝罪をしたい”なんて。
依頼者の藤川さんは悪さをしてきた人ではないと一目見てわかったし、ということはこれはただごとではないのだなと、僕の背筋はより伸びた。
彼女の依頼は主に人探し。それは僕の勤務する神様株式会社の一番得意とするところだ。
「貧乏神に福の神、天使や悪魔って、本当に神様の和洋折衷なのね、あなたの会社は」
藤川さんはそう言ってほんの少しだけ笑った。それで、死神だけは管轄外なんですよという話をしそびれた。でも、彼女になら言わなくても大丈夫かなと、なんとなくそういう気持ちになった。
僕が人を探し、藤川さんがその人と会い話し、行きたいという場所へも向かった。依頼は順調そのものだった。スムーズすぎて、背筋が少し寒くなるくらいに。
「カフェでコーヒーが飲みたいな」
それが藤川さんの最後の依頼だった。場所は思い出のお店。店内は運良く空いていた。
僕はブラックを注文した。
「藤川さんはコーヒーフロートなんですね」
「アイス、おいしいでしょ」
「ブラックが苦手だから、ですよね」
何か変だ、とは思わなかった。自然と出てきた言葉だった。すんなりと、これは確かに僕の意思で発した言葉だ。
藤川さんはコーヒーフロートのアイスをすくって一口頬張る。
「どうして藤川さんが僕にこんな依頼をしてきたのか、ずっと不思議だったんです。でも、今──」
藤川さんが寂しそうに笑っている。そうだ、昔から、そうだった。
「楽しかったですね、学生時代。僕はいつもあなたの隣にいて、いつも笑っていた」
ブラックコーヒーを見つめる。僕の姿は映り込まない。ありえないことなのに、僕は驚かなかった。
「キウイパフェも、藤川さんが会いたかった人も、行きたかった場所も、全部、全部、僕が願っていたことだ」
コーヒーのカップが持てない。でも、目の前にいる藤川さんはちゃんと見える。大切で、大事な、忘れられない人──。
「一番会いたかったのはあなただ」
僕の望みを叶えてくれた、人。
「――マイちゃん」
でも、どうしてもわからない。僕がいつ、そうなってしまったのか。そして、マイちゃんがいつからそうだったのか。わからない。
僕の知らない、管轄外の神様が僕の目の前で微笑んでいる。今までで一番寂しそうに。
「だから死神が迎えにきたのよ」