第21球 FA制度に思う(特別寄稿3)
FAってつらいですよね……。
皆さま、こんにちは。フリーアナウンサーの井藤一真(いふじ かずま)と申します。
以前は、埼玉ネオゼフィルス戦を中心としたプロ野球ラジオ中継の実況を担当しておりました。現在はフリーになりまして、話すことに日々奮闘しております。
さてこの度は、プロ野球選手会のオフシーズン企画にお誘いただき、まことにありがとうございます。野球選手のエッセイが毎日読める一ヶ月のオフシーズン、私もイチ野球ファンとして楽しんでおります。そのなかに貴重な一球を投じれますこと、至極光栄で身が引き締まる思いです。少しのお時間ですが、お付き合いいただけたらと思います。
オフシーズンになりますと、楽しかった(場合によっては悔しかった)シーズンに思いを馳せ、早く開幕しないかなぁと毎日のように思ってしまいます。
チームは来季へ向けて新しい風を呼び込んだり、逆に風とともに去りゆく人たちもいます。そのなかで、FA(フリーエージェント)は我々ファンにとって非常にやきもきする制度だと言っても過言ではないでしょう。今回はその、FAについてお話していこうと思います。ただしこれはあくまでも、私の完全なる独り言であり、私個人の思いであることを先に断っておきます。
FAって……つらいですよね。
と私が思うのは、FA宣言をして他球団へ移籍してしまった選手がいるチームのファンだからなんですよね。FA宣言をした選手が応援しているチームに来た、となれば、感情はまったく違うものになっていたでしょう。ですが私はそのようなチームのファンでありません。今年はようやく落ち着きましたが、これまでに何度FAで選手がいなくなったことか……。そしてそのたび、心の中に寒風が吹き荒れるわけです。
頭ではわかっています。FAは選手が必死にプレーし続けてつかみ取った権利。それを行使することは何ら悪いことではない。権利があるのなら使って当然。文句なんて言えるはずがない。頭ではわかっています。
でも、やっぱりさびしいんです。このチームで優勝したい、このチームで勝ちたい、ねぇ、そういうこと言ってなかったっけ? 一回できたらそれでいいの? 新しい挑戦? 今のチームでも挑戦はできるよね? やっぱり、チーム愛なんて幻想……いえいえ、頭ではわかっているんです。
これは全部、私のチーム愛が深すぎるがゆえのことだと。私のチーム愛が選手にも同じだけあると思うのは私のエゴであり、勝手なことです。愛が深いから、選手にもそれを求めてしまいそうになる。抑えないと。選手の人生は選手自身が決めること。ファンはそれを見届けるしかないのだと。ずっと愛するチームにいてほしい。その思いは変わらない。でも、自分がどれだけ思っていても、決めるのはいつだって選手自身。いちファンの気持ちなんてそこにはない。とっても寂しいけど。
FAというのは誰かが喜び、誰かが悲しむ。野球ファン全員が喜びに満ちるということはないのかなと思います。
でも、愛するチームは変わらず目の前にある。心にぽっかり空いた穴をふさぐために、より大きな声で応援していく。今までと違うユニフォーム姿の彼を見て、似合わないよねって強がったりして。でも、そうでも言わないと、この言葉にしがたい気持ちが鎮まらない。活躍するなら応援しているチーム以外との試合で頑張って。でも、ほどほどでいいよ、なんて。
FAで出ていく選手がいるということは、そこにチャンスをつかんだ選手が新たに現れるということでもあります。愛するチームを抜けた選手の穴を埋め、おつりが来るくらい、活躍している選手がいます。楽しいですね、ニューヒーロー誕生なんて言われたりして。そして、ニューヒーローに負けじと少ないチャンスで爪跡を残す選手もいます。そこにはもう、ワクワクしか存在しません。
チームには新陳代謝が必要で、FAはそれを半ば強制的に行うものなのかもしれません。ずっと同じチームでいることは、どの球団も難しく、その時代によって色を変え、私たちファンを楽しませてくれるのだと思います。でもできることなら、いつも強く、楽しく、熱いチームでいてほしいです。FAのことを忘れられるくらい! ……ああ、いつまで根に持っているんだ、私は。
他球団の評価が聞きたい、なんて台詞はもう禁句にしてほしい。本当にそうなの? と思うことが一度や二度じゃないし、それが建前であるのはファンも心のどこかでわかっているので、今後FA宣言する(予定がある)選手はぜひ、それ以外の理由でFA宣言してほしいです。本音だとしても。
なんだか、やっぱり切なくなってしまいますね。ああ、みんなが幸せになれるようなFAがあったらいいのになぁ。そういうFA、どこかに転がってないかなぁ。
オフシーズンはこういう寂寞とした思いが生まれてしまうので、何かで払拭したくなります。なので、このリレーエッセイはそんな寂しくなる季節にポッと心が温まる素敵な企画ですね。イチ野球ファンとしてとてもありがたく感じています。選手の皆さんの言葉は、とても勉強になることばかりで、今後の野球中継にも生かしていけたらと思っています。このエッセイを書くにあたり、FAのことを思い出してちょっぴりつらくなったのはご愛嬌ですが……(苦笑)。
次回からは再びプロ野球選手のエッセイとなります。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
フリーアナウンサーの井藤一真でした。