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9月18日 かいわれ大根といえば【今日のものがたり】
山上とのじゃんけんに負けて、学級日誌の感想欄を書くことになった。今日の感想……ラジオを聞いての感想だったらすぐに浮かぶんだけどな。
「ラジオの感想を書くのだったらすぐだよね」
じゃんけんに勝った山上はなぜか書く量が多い授業欄のほうを選んでくれて、すでに書き終わっている。
そして、うん、ラジオの感想だったらという、俺とまったく同じことを思っていたということで嬉しくなる。
俺と山上が自然(と俺は思っている)に話せるようになったきっかけが同じラジオ番組を聞いていたからなのだ。
「つつがなく……平和な日だった。授業中当てられてもちゃんと答えられたし、寝なかったし」
「それは素晴らしいことだよ」
「でも、それだけでいいのかな。なんかウンチクみたいなの書いといたほうが良くね?」
「ウンチク?」
「ただの感想だとつまんないかなって」
「清永それ、ラジオの感想意識してない?」
「……してるかも」
読んでもらいたい、採用されたいという欲望が思わず出てしまったようだ。
「じゃあ、かいわれ大根のこと書けば?」
「なに、いきなり」
「今日って“かいわれ大根の日”らしいから」
と言って山上が携帯電話を向けてきた。どうやら、記念日を紹介しているサイトのようで、確かに今日は“かいわれ大根の日”とあった。
「かいわれ大根って言えば小学生のとき、自由研究で育てたことあったなー」
「えっ! 私もあるんだけど」
「まじ?」
「なんかね、日向と日陰で育てると違いは出るのかって感じで研究した記憶があるんだよね。日向のほうが葉の部分の緑が濃くて、日陰のほうはひょろひょろって茎が長くて、日向の方に傾いてた」
「山上、よく覚えてるな」
「でも、覚えてるのそれだけ。そのあと家族で食べたってぐらいで、研究成果とかどうまとめたのかは覚えてないんだよね」
「いやいや、俺なんか自由研究したってとこまでしか覚えてないから」
「あはは。でもこれで感想欄に書けるね」
「山上のネタもらっていいの?」
「あくまでも私の記憶だから思い込みとかもあるだろうし、念のため山上の記憶によりますって注釈つけてね」
「了解。ありがとな、山上」
「どういたしまして」
なんだか日誌のほとんどを山上が書いたような感じになってしまうな。これは後日、いや、今日の帰りに何か礼をしよう。かいわれ大根でも買おうかな?