12月23日 東京タワーのおみやげを【今日のものがたり】
「いつもご利用ありがとうございます。お二人に、よかったらどうぞ」
僕の勤務先である山穂図書室。ここは廃校になった学校の図書室を改装して、村民の誰もが通える憩いの場として開いている図書室だ。僕が“憩いの場”と呼ばれるところで働いてもいいものなのか、この仕事を受けておきながら未だにどこか戸惑いというか申し訳ない気持ちがある。
「わー! ありがとうございます! てるてる先生の東京おみやげ!」
「あ、ありがとうございます……」
それでも、白倉兄妹──灯里さんと灯馬くんのように、頻繁に図書室を利用してくれる方々がいる。いつも明るく元気に挨拶してくれることで、僕はどこか許されているようなそんな気分になる。
そのお礼も兼ねて、僕は先日行ってきた東京のおみやげをふたりに渡した。
「東京タワーのブックマーク! 今読んでいる本はしおりのひもが付いてなかったからすぐ使える! ありがとうございます、てるてる先生」
「どういたしまして」
「灯里、そういうのすぐなくすから気をつけろよ」
「なくさないもん。お兄ちゃんだってこの間消しゴムなくしたじゃん」
「あれは小さくなりすぎてたんだよ」
「えー。わたしのより大きかったよ」
「ここは図書室だからあんまり大きな声だすなよ」
「えー。大丈夫だよ、まだ、わたしとお兄ちゃんとてるてる先生だけだから」
「そういう問題じゃねーだろ」
帰ってきたんだな。
そう……そうなんだ。僕は、山穂へ、帰ってきたんだ。
ふたりのやりとりを聞いて、はっきりそう思えた。それが今年の春から僕がここで生きてきたことの証なんだ。
「あ、てるてる先生が笑ってる」