7月15日 ありがとうと虹 ー鳴海sideー【今日のものがたり】
「え、雨……」
折りたたみ傘を持ってきているとはいえ、少しだけ降っているときにさす傘ってちょっとやっかいなんだよな。
だからって油断して傘をささずに歩いてると頭や服やバッグがそれなりに濡れてもっとやっかいなことになるのだ。そんな経験則から俺はなるべく傘をさすことにしている。
というわけで、折りたたみ傘をバッグから取り出し教室を出る。そんなに強く降っている感じでもないから、すぐにやむかもしれないな。
「え、傘ささないの?」
生徒玄関を出たところで傘をささずに帰ろうとしている女子がいて、俺は思わず声をかけてしまった。俺の声に立ち止まり振り返った女子は……同じクラス、の……上条……芽(かみじょう めぐ)だった。マジかよ。
「うん、さすほどでもないっていうか、そもそも今日は傘を持ってきてないから」
上条はこのぐらいの雨だとそう思うのか。でも、絶対濡れないってわけじゃないし、それは平気なのか?
「それなりに濡れるぞ」
「大丈夫だよ。今日はもう帰るだけだし」
ここで俺が、そうなんだ、じゃまた明日なって言って俺だけ傘をさしてひとり帰ったら……めちゃくちゃモヤるわ……。
「えーと、上条の家、詳しくはわからんけど、校門出て右に曲がるならしばらくは同じ方向だから俺の傘に入って帰れるぞ」
妙な言い方になってしまったし、しかもこれってもしかしなくても、付き合ってる二人が相合い傘で下校してるって思われる案件なのでは? それとも俺が意識しすぎか? ……
「「上 鳴 条 海が良ければ……」」
「「え……?」」
な、なんか今、俺と上条の声がめちゃくちゃ重なってなかったか? めっちゃ気の合う友だちみたいな……。
「「……あはは!」」
笑い声まで重なった。笑ってしまうタイミングまで一緒なんて、同じクラスでこれまでほとんど話したことなかったのが不思議に思えるわ。
「ありがとうね、鳴海」
上条がまっすぐに俺を見てくる。それにドキッとしなかったとは言えない。現に今、傘を差して顔を隠したくなるくらい、なんだか恥ずかしい。
「……上条はお礼をはっきり言うんだな」
「嬉しかったから。ちゃんと伝えたくて」
嬉しい気持ちになったのは俺もだ。そうだ、上条がしっかりこちらを見てくれているのだから、俺もちゃんと答えなければ。
「どういたしまして」
傘を持っていて良かった。持っていなかったらこうやって上条と話すことは今後もなかったように思えたから。
「あ……虹……!」
「え、どこどこ?」
「ほら、あそこ!」
「ホントだ、すげー!」
いつの間にか、雨はやんでいた。