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4月24日 植物のやさしさと……【今日のものがたり】
私には働く場所があって、住む家もあって、毎日眠ることもできている。
なのに、ふと心細くなってしまうときがある。理由はわからない。そういうときは楽しいことを想像しようと思うのだけど、心は不安でそわそわしているからうまく考えられない。
大丈夫、大丈夫。そう自分にいい聞かせながら目を閉じる。大丈夫、大丈夫だから。
今日が仕事のある日で良かった。ひとりでいたいと思うときもあるくせに、こういう気持ちのときは誰かにいてほしいと思う。勝手だなと思いながら私は人が必ず来る会社へいつもより早く出勤した。
まだ誰もいない社内で私は深呼吸する。大丈夫、大丈夫。
会社のフロアの一画には植物が置かれている。
所長の伊出(いで)さんが好きで置いている観葉植物たちだ。水やりは伊出さんの役目ということになっていて、伊出さんが出勤しない日は社員の私たちが代わりをつとめる。
所長の出勤有無はあらかじめ把握しているけれど、私は念のため連絡ボードを見る。今日は出勤日だ。大丈夫、落ち着け私の心臓。不安なことなんて本当にあるの? 気にしすぎなんじゃない? 多分きっとそうなんだけど、一度不安が生まれるとそれに飲み込まれてしまいそうになる。平気なときは平気なのに。なんなんだろう、これは。
物音がして私はどきりと顔を上げる。
「おはよう。今日はずいぶん早いね」
「おはようございます」
来てくれた。良かった。
伊出さんはジャケットを脱いでハンガーにかけると、そばのシェルフに置いてある霧吹きを手に取った。
洗面所で水を入れて戻ってきた伊出さんは、どこかで聞いたことあるメロディを口ずさみながら植物たちに水をかけ始めた。
植物は人にやさしいと思う。
そして、そのやさしい植物に楽しそうに水をかけている伊出さんもまたやさしい人なのだ。
しばらく眺めていたら得体の知れない不安も小さくなって、私の心もようやく落ち着いてきた。
(伊出さん、ありがとうございます)
穏やかな気持ちで仕事を始められることに感謝しつつ、今日のお昼は伊出さんにごちそうしようと決めた。伊出さんはいきなりなんで? って、びっくりすると思うけど。