2月7日 フナの大冒険【今日のものがたり】
「ねぇ、あなた。このなかから私の暇を消してくれる書物を見繕って下さらないかしら」
「姫様! 暇を……ですか」
「そうですね……では、今回はこちらでいかがでしょう」
「……ほうちょう……さばき、かた……」
「この書物に書かれてあることを会得できましたら、姫様の未来は明るきものになるかと……」
「それは……素敵なことね」
「そのための道具もここに用意してございます。いつでもお待ちしております」
「ありがとう。恩に着るわ」
* * *
「どうして私は外へ出てはいけないの」
「姫様。それはもう何度も申し上げているでしょう。この国の姫はお城にいることこそが最大のつとめ」
「異国の姫は冒険に出ると聞いたわ」
「そう、それは『異国』のお話です。姫様、物語と現実は違うのですよ」
「現実が物語のようでもおかしなことはないわ。そう、フナの大冒険というのはどうかしら」
「フナの、大冒険?」
「大きなフナに乗って海原を渡るのよ! たどり着く先は宝島。ワクワクするじゃない」
「……姫様。フナがどのようなものかご存じですか」
「ええ、知っているわ。知っているから出したのよ」
「そうですか」
「乗ることができるほど大きくないことぐらい知っていてよ。物語の一つとして話したの。でも、私は本気よ。お城のなかにいることが最大のつとめだなんて、私がその悪しき習慣を変えてみせるわ」
「悪しき習慣であるわけがないでしょう……」
「どうかしら」
「……良いでしょう。では、フナを捌けたら外出を許可いたしましょう」
「……なんですって」
「フナがどのようなものかご存じであるのなら、捌くこともできましょう?」
「嫌いじゃないわ、その考え方」
「……本気で捌くおつもりですか」
「あなたが言い出したのよ。考えが変わらないうちに捌いてみせるから」
* * *
「な、なぜ……こんなにまで綺麗に捌けるのですか、姫様……」
「ふふふ。企業秘密よ。ということで、私は外へ出るわ」
「姫様!」
「なあに? 約束は約束よ。私はフナを綺麗に捌いた。文句は言わせないわ」
まずは、あの書物を薦めてくれたお礼を買いに行こうと思っているの。