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7月5日 プラチナエイジに思う【今日のものがたり】
「プラチナエイジ……か……」
ため息、とまではいかないものの、それに近いものが魔王様から漏れ、私はほんの少しだけ眉を動かしてしまった。
「どうしたのです、魔王様?」
驚いた、ということを悟られぬよう私は眼を細めて問いかける。
「とある資料に載っていた単語をつぶやいただけだ。深い意味はない」
少なくはない資料から目に留まった言葉、ということは……浅くはない意味があるのでしょう。
「遠い遠い国に存在しているという“プラチナエイジの日”のことですね」
──永遠に変わらず輝き続ける──
「だから、どうだというのだ」
「いえ。魔王様がつぶやかれたことに関して無視はできぬ立場ですので」
「ふん。都合良く聞こえぬふりをすることもあるだろうに」
「それは私ではなく魔王様のほうでは」
「……少し、懐かしく思っただけだ」
「魔王様も懐かしむことがあるのですね」
「魔王と言われる私にも心はあり、感情というものも少しは持ち合わせているからな」
「存じております」
「どうだか」
魔王様のことを一番近くで見てきているのですよ、知らないはずがないではないですか。
「人間は永遠には生きられるのであろう? ゆえに人間は永遠のような輝きを……いや、この話はやめておこう」
魔王様がいつのことを、どなたのことを、話そうとしたのか。いまここで聞き出す無粋なことはいたしませんが、おそらくは閉じた瞳の奥に、かの人を思い浮かべていたことでしょう。
「人間の本心は私には永遠にわからぬことだ」
「何をおっしゃいますか。人間を知ることは世界を知ること。世界を知ることは魔界を制すること。そうではありませんでしたか?」
「腹が減った。私は食事をとる」
ほうら、そうやって聞こえぬふりをする。ですが、お食事をなさるということは……明日(みらい)を見据えているということですから、今日のところは良しとしましょう。