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6月14日 手羽先をがぶっと【今日のものがたり】

「いい食べっぷりだねぇ、小路(こみち)ちゃん」
「今日はグルメを楽しみにしてきたので、とことん食べますよ!」
「ここはグルメおいしいもんね。でも、野球も見ようね」
「……気持ち、見ます」
「……まだ、ダメなの?」

 まだ

 そう、まだである。まだ、ダメなのだ。でも、私は球場(ここ)にいる。先輩にお誘いをいただき、私はそれを断らなかった。

 野球は見たい。でも、見ると楽しさより羨ましさがまさってしまう。いないのだという現実が目の前に広がっているから。私が一番応援していた選手は本当にもういないという現実が。

(いかん、いかん。暗くなりすぎては)

 私は今シーズンの新メニューである手羽先をがぶっといく。おいしい。食べ物は本当においしいのに。野球の試合があるって思うとどこかホッとするのに。でも、もやもやもする。ああ、私の気持ち、なんとかならないかな。

「本当にダメだったらここには来れないと思うんです。やっぱり、好きなんだと思います。野球のことは」
「僕は小路ちゃんと野球観戦できて嬉しいよ」

 先輩は優しい。私も先輩みたいに箱(チーム)推しのままだったら、今ももっと楽しめていたのかな。

(いかん、いかん。選手推しの日々だって確かに楽しかったんだから。なかったことにはしたくない)

「あ、先輩は今日も焼きそばですか? 屋外球場ではないですけど」
「これは今日から発売になった選手プロデュースの具だくさん焼きそば」
「ホントに具が多いですね。ショウガもいっぱいだ」
「プロデュースした選手がショウガ好きらしいよ」
「へぇ~。私もショウガ好きです。今度はそれを食べようかな」

 言ったあとで“今度”という言葉が自然と出てきたことに驚いた。また球場へ来ようという気持ちが自分のなかにあるということだ。
 先輩がこっちを見て笑った。どこかホッとしたようなそんな表情だった。

「先輩、ありがとうございます。誘って下さって」
「うん。僕も、もりもり食べる小路ちゃんを見られて嬉しいよ」
「また、もりもり食べますよ」
「今度はおごんないけどね」
「えーそこはおごるよって太っ腹なとこ見せてくださいよー」

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