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【短編小説】お雑煮

【利用規約(無料版)】2021/12/16 作成

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作者名:こはる
note:https://note.com/koharu20180909
Twitter:https://twitter.com/koHaru20180909

[本文]710文字

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短編小説『お雑煮』

「お餅いくつー?」
 台所から母の叫ぶような声がする。
「三つー!」
 こちらも叫ぶように返す。
「二つー!」
 となりの部屋から妹の叫ぶ声が聞こえた。
 そんなに広い家ではないけれど、さすがに別の部屋から台所への声は、それなりに大きく出さなければ届かない。
 父の声は聞こえなかったので、ダイニングに居るのだろう。父はよく、ダイニングで新聞を読むふりをしながら、母の料理する後ろ姿を眺めている。
 いや、ちがう。いた、だ。
 私はまだ、父の居ない生活に慣れていないことを実感させられる。特に、今回は父が居なくなって初めての正月だからだろうか。

 暑い夏のとある日曜日、アイスを買ってくると言って出かけた父は、居眠り運転のトラックに引かれて死んだ。即死だったという。
 別れの言葉を交わす間もなかったけれど、苦しむ時間がなかったのならよかったと思うことにする。そうでも思わないと……。

「いただきます」
 食卓に、お雑煮が四つ。母と妹のお餅は二つ、私は三つ、父の分はひとつ。
「お供え物ってさ、味がなくなるって言うよね」
 ふと、どこかで聞いた話を思い出して口にする。
 妹が、チラリと父のお雑煮を見て言った。
「味のしなくなったお雑煮、誰が食べるの?」
 父が食べるのだと信じて疑わないその言葉に、なんだかホッとした。
「お母さんが後で食べるわよ」
 当然のように母が言う。これが夫婦なのだろうか。

 洗い物を手伝って台所に向かっていると、なんだか背中に視線を感じた。振り向くと妹が黙って眺めている。
「何してるの?」
「お父さんの気持ちになってるの」
 頬杖をついて、母と私の背中を見つめ続ける。
 私は「ふーん」と言うと、気にしないふりをして、また洗い物を続けた。

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