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【短編小説】Valentine【484文字】

 買い物に行くのが楽しい季節がやってきた。
 寒さは一段と厳しくなって、手足も冷たく凍えることが多いけれど、ショッピングモールは暖かいし、何より品ぞろえが素晴らしい。右を見てもチョコレート、左を見てもチョコレート。普段はチョコレートを取り扱わないお店でも、このシーズンだけはチョコレート関係の商品が並んだりする。
「青い春が来たねぇ」
 にんまりと笑って言うと、傍らの友人が嫌そうな顔をした。
「年老いたじじいみたいなこと言うなよ」
「じじいとは失礼な。せめてばばあにしてくれ」
 軽口を叩きながら歩くのも楽しい。

 いくつもの時代を超えて様々な文化を見てきたけれど、このバレンタインというイベントは本当に素晴らしいと思う。特にこの日本という国で流行した、好きな人に愛を伝える日、というのが最高だ。
 友人は「お菓子業界の陰謀」なんて言うけれど、こんなに素敵な陰謀ならば大いに結構。たくさんの若人だちが、青春の知略を巡らせて愛の画策をすれば良い。
「いやぁ、春だねぇ」
「まだ冬だよ」
「いやいや、もう春さ」
 周りを見渡せば、愛する人を想ってプレゼントを選ぶ、人々の笑顔が花開いている。

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