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拙作語り④~六花繚乱ヘキサムライ(その4)
民話伝承との関わりで考察~人間と人外(異類)
西洋版になると離れてしまうのだけれど、とりあえず日本を舞台としている現代劇『六花繚乱ヘキサムライ』と時代劇『六花稗史』において登場するキャラクターは人間か人外かに分かれまして(西洋劇になると元々人外キャラだった面々も人間に置き換えられて、そういう意味では相応に現実的な話にはなるのだろうと)。それは「妖怪悪霊を討伐する妖霊狩」「妖怪や霊を飼いならし使役する妖霊飼」を中心にした物語だから当然のことなのでしょうが。つまり「人間に敵対し退治される側」「人間に仕え協力する側」が人外・異類という構図になり、敵役とか人間には無い能力で人間をサポートする味方役と言えるのかと。
妖霊狩に過去から協力してきた天狗・長元坊、古狸・さく乃。
そして妖霊飼。現代劇のみで登場の、主に物品の怪である付喪神を従える傑には、側近・四君子として宝珠の怪・梅、鏡の怪・蘭、鈴の怪・菊、刀の怪・竹が居り。
時代劇(≒過去の歴史)から通して関わる妖霊飼・九戸帰命丸さらにその子孫である究子は主に生き物の怪を集める傾向にあり、彼らに仕えてきたのが白蛇の怪・玻璃。狐・琥珀や蜘蛛・白珠あたりは究子か彼女に近い先祖の代から加わったと思われます。琥珀との間に黄金丸・白銀丸をもうける雌狸・あんずは究子の代から。
琥珀の場合は同じ異類同士で恋バナになった感があるけれど、どうも過去に人間の男と大恋愛したっぽいというのが玻璃で。
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しかし数々の昔話を例に挙げるまでもなく、異類婚姻譚というのはなかなかハッピーエンドにはなりがたい。拙作でも、その路線を踏襲しているのですが……。
竜部の青侍(妖霊狩)と白蛇の化生(妖霊飼の配下)、その恋愛
現代劇では初対面時かなり一触即発だったので互いの印象は多分だいぶ最悪だったはずなのだけど(苦笑)
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第十三話で戦闘不能状態になっていたシンヤ(竜部の青侍)を、玻璃が助けて戦線復帰させ、形勢逆転し討伐を成功させたという経緯があって、シンヤは「あいつ…イイ女だったなぁ」とか思うようになるのだけれど。
玻璃の特殊能力というのは「傷を癒し毒を除き、切れかけた魂の糸を繋ぎ留める」、これは即ち「六花ワールド最強の看護師」であり、そのうち看護師服コスプレ描くんだろ、、的な空気感です(自爆)。毒をもちうるはずの蛇が解毒能力を備えるというのは、拙作における妖刀の「毒をもって毒を制す」にも通じるのかもしれません。。
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それが時代劇になると、完全に青侍の一目惚れになり(爆)
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他の下僕の妖霊たちには許さなかったのが、何故か辰哉は白蛇怪・玻璃に限って妖霊飼・究子ともども妖霊狩の里へ入れる。
おそらく玻璃も必死に主人に付き添おうとしたのではあろうが、それにしても「何なのよ」感がこの辺から漂ってはいた。。
寅弥が究子の身元を引き受けて自宅に連れ帰ったことで、一旦辰哉もその場を去るわけだが……
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玻璃が一人で居るところを見計らったかのように現れて、おかしなことを訊いてくる(汗)
これで、玻璃も「こやつが姫様に手荒な真似をしなかったのは、私が居たから…」と悟ることに。
彼女が人間の侍女だったら、辰哉の「いけいけ押せ押せ」の肉食ぶりに、そりゃもうひとたまりもなかったと思うのだが(酷評)
異類だったので、さすがに彼もそこは踏みとどまったのではあった。
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…こうして漫画ページを挿入してると、印刷製本する前提で描いてるから綴じ側に「のど」という余白をとることとなり…ちぐはぐな印象になるのは否めない(正直な気持ち)
話を戻すと…
外見から入ったはずが、性格気質も自分が求めるものを持ち合わせていることが分かり、「これを逃さない手はあるか」に至り。
彼の本気が彼女に移った的に、玻璃も部分的ながら彼の本気を受け止めるのだが、
「その想いは分かった…
されど、けじめはつけねばならぬ。越えてはならぬ一線がある…
私は ぬしより長く生きてきたから、それを良く知っている…」
と告げ、どうやら過去に人間と大恋愛し辛い思いをしたらしいのが見えてくる。
辰哉が彼女のこの台詞の言外のところまで読もうとしてないというか彼女の過去をほぼほぼ気にしてなくて、まあそれが彼らしくもあるんだが…そこは少し勘ぐってもいいんじゃないかと筆者的には思ったり(爆)
あと、筆者としては「彼女が彼を好きになる理由」がいまいちスッキリしない思いはいまだにあって(爆爆)。戦隊ものの一つのお約束的に赤レンジャーに次ぐ戦闘能力の高さを誇る青レンジャーだが、人間的には未熟、言ってしまえば中身がだいぶガキ(酷評:だがコレ、年下の緑侍・格之進にも「確かに辰兄は強いけど、中身は割とガキだから。おれでも時々驚く程にガキ」と言われてしまうくらいの実話)。だからもう、これは「本気が伝染った・情にほだされた」という表現しか無いんじゃないかと(困)。そうだとしても、結局辰哉の情熱と粘りの勝利ということになるんだろうけど……(大困)
そして巻ノ三になっても辰哉は一向に諦める気配など無く、ただ自評「真剣かつ節度ある付き合い」を続けているという・・・
一方、やはり「越えてはならぬ一線がある」という思いが強い玻璃は、何かと辰哉には素っ気なく振る舞い、「さっさと別の(人間の)女を見付けて乗り換えてくれればいいのに」みたいな言い方をすることも…。そのくせ、「花実が咲く(良い結果が出る。ここでは想いが叶い報われる的な)ことがないと分かっていても、私は…」とか言ってみたりもする。女心は人外でも複雑なのである。。
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その裏側―竜と蛇との繋がり
この二人の、恋愛という一言では片付かない関係に関して、筆者的には当初から狙っていたわけではなくて(爆)
なんか、現代劇では話が進むうちに「あれ?」になってきて、本編終章でシンヤ(青侍)が「オレ、もしかして…あいつに恋してる?」みたいに自覚するところで終わるんだけども。
時代劇では現代劇ラストの流れを受けたかのごとく、前述のように最初から「青の妖霊狩が白蛇怪を好きになる」という設定になって(汗)
性格的なところも無論影響はしているのだけど、やはり他の氏族でなく竜部の者が蛇の怪と深く関わるという構図に、自分でも「仕組んだ感」を思ってしまう次第で。
各地の竜や蛇にまつわる伝承を見ると、竜と蛇との関係性の強さというか、境界が曖昧だったりな印象があるものですから。
俵藤太の百足退治は有名な話だと思うけれども……
概略は、こうであります。
*
近江国の瀬田の橋に大蛇が現れ、人々が渡れなくなる。しかし俵藤太は恐れることなく橋を渡る。彼の前に乙女が現れて自ら竜神と名乗り、三上山に住む大百足を退治してほしいと頼む。彼は引き受けてやり遂げ、竜神から褒美をいただいた。
(ホームページ『日本の伝承大鑑』~滋賀~龍王宮秀郷社/雲住寺 百足供養堂 より要約)
*
こちらでは「大蛇=竜神の化身」という形です。
俵藤太は藤原秀郷の別名で、伝承の中では前者が使われることが多いんじゃないかと。歴史の教科書などで承平の乱すなわち関東での平将門の乱を鎮圧した人物として見るのは、後者の名でしょう。
元々はインドの川女神である弁財天の神使が白蛇とされるのも、「蛇―竜―水」の繋がりが見えるところです。水神=竜という図式は東洋では一般的、そこまで言わずとも「違和感が無い」と思うのですが、蛇を水神の一つの姿とする信仰というか伝統も、少なくとも日本においては広く根付いている印象を受けます。
蛇が修行をして昇天し竜となる、的な伝説もあるようで、『ヌシ 神か妖怪か』(伊藤 龍平 著)には、竜になるための修行として人間界で人に化けて働く蛇というのが書かれていて、働き者で周囲の人間たちには好かれるのだが、何かのきっかけで正体がばれてしまい去って行ったりも…。
鯉が滝を登って竜になる、という伝説つか信仰的なのもありますが、これは日本より中国色が強いでしょうか。。
何より東洋の竜は「実在する生物の中で一番近い姿かたちのものを挙げろ」って言われたら、やっぱりあの細長く鱗に覆われた体が蛇のようじゃないか、、って答えになるんじゃないかと。。
ともあれ、人間と人外なので、二人の関係はとかく歓迎されない感があり。しかし、叶わぬ恋だけど辰哉はあまり不幸そうには見えず、これはこれで楽しそう(正直な感想)。
ちなみに、『六花稗史・三』第六話にて辰哉が大百足に大苦戦しピンチに陥るくだりがあり(爆)。
竜は百足に勝てないのか……
結果だけ簡潔に言うと、拙作うちでは俵藤太に倣い「人間の唾をつけた矢」、ではなく火矢を射かけ危機を脱し、体表の鎧的構造を弱らせたところで大太刀により成敗するのですが。。
以下、補足というか蛇足というか、ついでというかな話になりますけど。
山口県岩国市は日本三奇橋の一・錦帯橋で有名ですが、当地にはシロヘビが集中して生息し遺伝的に子孫に受け継がれており、国指定天然記念物になっているそうで、「岩国シロヘビの館」という施設で見ることも出来ます(実際、自分も行って見てきました;)。
アオダイショウのアルビノだそうで、色素細胞をもたない種がこう呼ばれます。アルビノは劣性遺伝(現在の中学理科・高校生物の教科書では「優性」「劣性」って言わないんだそうですが)なので、優性遺伝子があれば発現せず。両親共にシロヘビなら子も必ずシロヘビ、ということにはなります(※ここ、当初「両親共にシロヘビでなければ子もシロヘビにはならない」と書いてたのですが、親がヘテロの非シロヘビ同士あるいはヘテロの非シロ×シロでもシロヘビが生まれうるので、お詫びと共に訂正します…)。
アオダイショウなので毒はもたず、それでだいぶ怖さは薄まります。白い体に赤い目。子どもの小さな蛇は「可愛い!」と思えるくらいです。ハート(♡)模様をもった「ラブちゃん」は、更に可愛い。
以前「謎の生物が現れた」とニュースになり、その正体はタヌキのアルビノだったという…。自然界ではなかなか誕生の確率は低く、更に生まれたとしてもその白色の体が目立って捕食されやすいなど、過去も現在も人間が目撃することは少ないと言えるのだろうと。珍しいからこそ有難く、神様のお使いだとか、吉事の予兆のように捉えられたのではないでしょうか。
追記
この話では出てこないけれども、竜と馬、猿との関係性について、『西遊記』の研究においてその道では有名な御方という中野美代子先生は「猿(孫悟空)は龍(龍太子)をいじめるが、龍が馬になる(そして三蔵法師を背に乗せるようになる)と馬のことは守る」と述べていて、この「猿は馬の守護者」というモチーフは日光東照宮の神厩舎の彫刻・猿の一生――中でも有名なのが「見ざる言わざる聞かざる」の三猿――にも見える、的な展開をなさってた記憶があるのです…。
また、非常に優れた馬・駿馬を「龍馬《りょうま・りょうめ》」とも言います。優秀なもの・強いものの頭に「龍」を付ける、ということなのかもしれませんが、他の動物に付いても「龍馬」ほどの使われ方は過去から現在までしてないんじゃないかと個人的には思うのです。。
拙作における馬は乗り物としての役割が非常に重く、他のところはそこまでウェイトを置かれていない気がしており(墓穴)、猿も出てくるとしたらどちらかというと悪者、味方よりは敵なのだろうと思います。
でもこの「猿・龍・馬」という図式、使えたら面白いだろうなあ…という思いはあって。何か・どこかで使えたらいいですねぇ・・・