美術鑑賞記録~2024/1
「早川義孝展 色彩のシンフォニー」(しもだて美術館)と「グラスアート・ライジング」(茨城県陶芸美術館)を見てきました。
「早川義孝展 色彩のシンフォニー」
しもだて美術館は、茨城県西、JR水戸線の下館駅から徒歩圏内の地域交流センター・アルテリオの3Fにあります。
早川義孝(1936~2012)は、千葉県柏市を中心に活動し、幻想的な心象風景を多く描いた洋画家。私は、今回の企画展で初めて知りました。
企画展のチラシを目にし、「これは実物を見たい」と。。
詩を書くように絵を描く、とでも言うのでしょうか。
そこに在るのは陰影が無く、しかし平板かと思いきや奥行きを、そして物語をも感じさせる不思議な世界。
色使いも、ファンタジックでありエキゾティックだったりもし。
チラシに印刷されるとソフトになってしまうところもあるけれど、実際の原画はもっと色が鮮やか。赤、黄、青、緑、紫、白・・・どれもとにかく鮮烈、目に刺さりそうなくらいに自分には感じられました。
油彩画もある一方で、グアッシュを使用した絵もかなり多く。
単にグアッシュと言った場合、一般的に不透明水彩絵具を指すのかと(「アクリルガッシュ」になると、水で溶くことが出来て乾くと耐水性になるアクリル絵具)。小学校に入ると先ず使うこととなるあの絵具が不透明水彩です。小学校~高校時代の私自身はケチというか(自分で言った)不透明水彩を薄く薄く溶いて透明水彩ばりの塗りをし、そこが先生方にはウケが悪かったのですが……
話を戻して。
昔ほど「洋画=油彩画(油絵)」であり、油彩のほうが格上みたいな空気があったようなのですが、水彩絵具を用いて表現を続けた画家というのも登場してきます。茨城県ゆかりの画家である小堀進も、その一人であろうと。大らかな筆致で風景や静物を描いた絵が幾つも茨城県近代美術館に所蔵されております。
早川義孝の作品に繰り返し登場する、シンドバッドの船、灯台、鳥、木々、蝶などのモチーフは、画家の心象と関わり深いものなのだろうと。
幻想的な絵だけでなく、実在の場所の風景が元となっており詩というか散文というかが添えられた、スケッチや絵手紙的なスタイルの水彩画もあり。それもやはりリアルな写実画ではなく、デフォルメも入り心象風景風なのかなと…とはいえ、実在の場所で特徴的なところは描き込まれていて、場所を聞けば「あぁ、あそこの絵か」と理解できることは書いておきたい。。
誰にでも描ける絵ではない、ただ誰もが「上手ですね」と言うような絵ではない、そんな絵を描く――それが画家の信念だったのではないかと感じられました。
これは自分個人の考えなのですが、やはり誰もが「上手い」と感じるというか「分かりやすい」のは結局のところ写実画になるんじゃないかと。とりわけ、絵心がない側の人たちは写真のようなリアル絵画や美しく整った漫画絵を褒めがち(辛辣)。ほんと「絵が綺麗」とか「〇〇さん(有名な画家・漫画家)の絵にそっくりですね」ってのは、本人が狙ってそうしてる場合は別だけど、自分らしさを大事にして試行錯誤・創意工夫を重ねる人に対してはさっぱり褒め言葉にならないってのは覚えてほしい(しみじみ)。
多少絵が描けて趣味ながら相応に年数を重ねている自分から言わせてもらうと、一見不格好で謎ばかりな絵も何か物凄く光るものを内包していたりする。更に言わしてもらうと、写真を手本に「写真のような絵」を描くんなら、そのジャンルはもう写真に任せてしまえばいいじゃないかとも思ったり(問題発言:自爆)。
リアル絵画に必須なのは観察眼と技術。前者はともかく、技術ってのは…技術ばかりに偏重するのは美術全体として問題だと思うのだけど……実際「とにかく上手くならなきゃ。技術を上げなきゃ」とか「上手くなる=技術を上げる」オンリーとなると、端的に「美術とは技術である」みたいな、そういう空気感に行き着いてしまうんじゃないかという危惧が。。
言い方を変えると「見目よくまとめ且つ世間の高評価を得ようと思うなら技術が絶対条件」みたいな神格化も良くないんじゃないかと。
日本美術史においても、誰が見ても上手い正統派がある一方で、独自路線を歩む個性、名前が伝わっていないヘタウマ絵師も存在していた。いや、上手いということにはなっているが、それは昔の日本画の約束や世の中の思想の中での「上手い」であって、江戸末期から明治に西洋絵画の理論がドバッと入ってくる中でまた一波乱、的な・・・。その辺の話は、やはり山口晃さんの著書『ヘンな日本美術史』に詳しいと。山口さんは職業画人の中でも絵自体すごく上手いんだけども、何というかその独自目線と知識と「丁寧な語り口と見せかけてバッサバッサと斬り捨てる」爽快感があり、文筆家としても素晴らしい才能じゃないかと私個人は思っており、『すゞしろ日記』も出るたび読んでます(「銭湯洗い場を眺めると、座る前に椅子に湯をかけ流すくせに、自分の体を洗わない段階で座ってる人が居る。座ろうとする椅子は洗うのに、自分の尻は洗わないままに腰掛ける。お前の尻はそんなに綺麗か」的な『尻洗い論』がムチャ刺さってから全巻読むことに;尻洗い論は多分私個人による勝手な命名←おい)。コンテストの審査員をした時の、「『自分の描きたいものを、描きたいようにのびのびと描きました』と応募者は主張するけど、実際は全然のびのび描いてない」といった感想が手厳しいけど、それは事実だろうなと思うんですよね。コンテスト受賞を足掛かりにプロとして画業で食っていこうとしてる人が応募してくるわけだから、「ウケるものを」というのがどうしても入ってくる。ゆえに「自分が好きなものを好きなようにのびのびと描けるはずがない」ということにもなるんだろうなと。
あと、何せ上手い人がヘタな絵をヘタと言うんだから納得がいくと(爆)。「ヘタウマではなく純粋にヘタ」みたいに斬り捨てても、何となく納得してしまう(爆爆)。ホントに上手い人にならヘタと言われても諦めがつく、自分では手を汚さない鑑賞専科の読み専に偉そうにあれこれ批評されたくない、でも自分のような中途半端は正に「素人が絶妙な嫌気をもよおす『ヘタさ』」という心の叫び(おおいに自爆)。。
・・・そんなことを思いつつ。(長い脱線だった:墓穴)
具象画のほうが分かりやすいから評価されがちだが、空想画・抽象画も深くて広いんだ、って話でもあるかと。
『ちびまるこちゃん』などで知られる漫画家・エッセイストのさくらももこ先生は、「ピエロの画家」とも呼ばれた茨城ゆかりの画家・塙賢三のファンで、その作品を二十歳になった記念に買い求め、大事にしてきたのだといいます(2019年、茨城県土浦市・土浦市民ギャラリーにて開催「塙賢三展~ピエロの画家、故郷へ」についての、サイト「NEWSつくば」の記事を参照)。私自身、土浦市民ギャラリーと茨城県近代美術館で見たことがありますが、この塙賢三の絵も具象画ではなく幻想的かつメルヘンチックでもあり。色使いや世界観は異なりますが、早川義孝の作品もこれと近い方向性があるような印象を私は抱きました。あくまで個人の印象ですけど。。
そして、下館は現在筑西市となっており、筑西といえば、かの横山大観と共に茨城県名誉県民となった陶芸家・板谷波山ゆかりの地なので、波山作の陶器が常設展示室に並んでおり。
陶器の立姿もだが、描かれた花々がとにかく美しい…
美麗壺、美麗皿。。
刺繍図案として紙に描かれた絵も展示されていたのだけど、その絵自体がすこぶる達者…
「すごかったなぁ…」と呟きながら、美術館を後にする。。
「グラスアート・ライジング」
茨城県陶芸美術館は、笠間市の笠間芸術の森公園内にあります。
JR水戸線の笠間駅からだと、芸術の森公園までは歩くと少し距離があるので(笠間稲荷神社までよりは、やや遠い)、バスかレンタサイクルを使うと時間の節約になるかと。観光地巡回バスが昼間1時間に1本くらいあり、1乗車100円ですので、これ使うのもありかも……
私は個人的に年に数回は笠間を訪ねており、笠間と一口に言ってもあちこち行っていて、バス・徒歩で難しいところはレンタサイクル利用ですが、今回は観光周遊バスを使うことに。。
話は戻り、この茨城県陶芸美術館では、陶器だけでなくガラス作品も収蔵しているようです。そして、今回の企画展もガラス作品。
自分のお目当ては、藤田喬平の飾筥シリーズ。
もう二昔とか前に宮城県松島を訪ねたとき、たまたま観光案内所で藤田喬平ガラス美術館を知り、寄ってその作品を見て驚愕したのが最初の出会いです。所蔵品図録やポストカードを買いまくった思い出…。何年も前の話ですが、テレビ番組「美の巨人たち」でも取り上げられました。現代ガラスの琳派と呼びうる藤田の飾筥は海外でも高い評価を得、「この箱には何を入れるのですか」と尋ねられた作者が「夢を入れます」と答えたことから、「ドリームボックス」とも呼ばれるのだと(「美の巨人たち」内でそんな話が紹介されていたはず…)。
自分の他に、自分よりいくぶん若いと思われる男性が一人、展示室で作品を見ていたのだけども、居並ぶ飾筥の前で目を皿のようにし「すげー…すげー…」と小声で連呼してました。
展示室内だから、大声は慎まねばならず。でも、口から出てしまう。黙ってなど、いられない。
分かる。分かるよ、その気持ち。自分も初めて見たときは、そうだった。。
他の国内外のガラス作家の作品も多数並んでいましたが、同じ材を使っているとは思えないほど、表現も作風も実に様々。柔軟さが、とんでもない。
すごいな、と素で感じました。。
柔軟さがとんでもないといえば、陶器のほうもです。
陶芸美術館ですから、当然のように常設展示室(コレクション展)には陶器が並ぶ。その中には、同県出身のマエストロ・波山(前述)の作品ももちろんあり。人間国宝・松井康成の作品も数多く並んでいました。
同じく粘土から作られるのだが、これまた表現も作風も幅が広い。「何をどうしたら、こうなるの…」的なもの、多数。。
器だけでも色々あるが、オブジェという領域もある(これはガラスにも言えることかも…)。スタイリッシュからファンシーまで。。
笠間は隣県・栃木の益子と共に陶芸の町であり、窯元も複数存在し。自分も数ケ月前と割と最近陶芸体験してきましたが(手びねりは二度経験済だったので「ろくろ!電動ろくろがやりたい!!」で行ってきました…)。
作家の作品を見て購入するだけでなく、自分で作るということも出来るのだと。
寺社もあり(坂東三十三観音第23番札所・正福寺、日本三大稲荷の一・笠間稲荷神社、ほか多数)、花もあり(つつじ公園や、笠間稲荷神社の大藤・八重のフジ、秋には同神社で菊祭りも)、グルメもあり(稲荷ずし・そばもだろうが、やはり栗の名産地ゆえの栗メニュー)、アートもあり(陶芸美術館の他に笠間日動美術館などもあり。陶器を見たり作ったりという体験もあり)、アクセスや観光地を巡る足的なものも悪くなく。県内でも観光要素の総合値が高いところじゃないかと個人的には思ってます。(だから自分も年に何度か行くんだろうけど…他に巨樹巨木的にもなかなか良いからってのも理由;)
このところ「これは!是非見たい!!」と思えるほどのものが無いとか、遠くて軽い気分では見に行けないとかで、ミュージアム自体から幾分離れていたけれど。
行って見ると、やはり刺激をもりもり受けますね・・・自分も頑張って何か制作したいなあという気持ちにもなるし。。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?