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人形道祖神を知っていますか

人形道祖神とは「ムラに厄災が入るのを防ぐ為に村人が作って村境や辻などに立てる境の神」で、石碑的なものでなく藁などで作られた人形であり、東北・関東地方に見られるという。
道祖神といえば、信州安曇野あずみのの男女神が手を取り合っている和気あいあいとしたものを想像する方も居られるのだろうけど。道祖神は悪霊や疫病などを防ぐ神であり、その姿は色々で、前述のような男女神が寄り添う姿が彫られたもの、「道祖神」と文字で彫られた石碑、男女の陰部をかたどった石などが置かれていることもあるらしい(コトバンク、Wikipedia参照)。
人形道祖神は木や藁などを材料に人型に作るもので、中にはかなり大型なものもあるようで。しかしその材質ゆえに劣化も早く、石像のように放置することは出来なくてメンテナンスしなければならない為、地方によっては過疎化・高齢化により存続の危機を迎えているところも少なくないという。秋田県に多いらしく、秋田の人形道祖神は民衆アート全開の、かなり個性的な神様ばかりなのだけど。
その辺りの詳しい話は本『ニッポン脱力神さま図鑑』(宮田 珠己 著)や『村を守る不思議な神様 永久保存版』(小松 和彦  著、 宮原 葉月 画)を見ていただくとして、私は関東における例として、茨城県石岡市で今も続いている二地区の人形道祖神について書いてみようと思います。

石岡では「人形道祖神」ではなく「大人形」や「ダイダラボッチ」と呼ばれます。ダイダラボッチは他地域ではダイダラボウとか別の呼び名も存在しますが、伝説に登場し山や川などを作ったといわれることもある巨人で、巨人伝説自体は日本各地にあるのではないかと(茨城県水戸市の大串貝塚ふれあい公園にはダイダラボウの巨大な像があります)。
2023年現在、代田だいだ長者峰ちょうじゃみねの二カ所に大人形があり、代田のほうは市指定文化財となっています。そして、代田にはダイダラボッチの足跡といわれる場所も存在するのだとか(サイト「茨城の民話Webアーカイブ」<http://www.bunkajoho.pref.ibaraki.jp/minwa/>より)。
石岡市ホームページ内の資料によれば、天明の大飢饉(1782<天明2>~1788<天明8>年)の後から作られるようになったといい、一度作るのを止めてみたらその年にかぎって集落の働き手が相次いで亡くなったという伝承があり、続けられてきた、とのこと。
しかしながら、かつては代田・梶和崎・古酒・長者峰・八木(井関字)、御前山(三村字)の六つの集落で行われていたのが、材料不足や後継者不足などの理由で八木・御前山で途絶え、おそらくここ10年ほどの間で梶和崎・古酒でも継続を断念したようです(2023年5月に見た旧版のGoogleストリートビューには梶和崎と古酒の大人形も映り込んでいて確認出来たのですが、現在公開されている2023年6月版のストリートビューには、もうその姿がありません…実際、今月現地に行って見てきましたが、やはり存在していませんでした。。ブログ「美しい日本、この一枚」<http://kono1.jp/>には2016年9月の記事として石岡のダイダラボッチが3体=代田・梶和崎・古酒の大人形が掲載されてます)。
かくて現在も残るのは代田と長者峰ではありますが、おそらくこれらも存続が難しい状況には変わりがないのだと思われます。。

二地区では毎年8月16日に、これまで一年間据え置かれた人形を解体し、新たな大人形を作り直すのだといいます。作ったり据え置いたりは男性の役目であり、使われる藁は小麦藁で、代田では小麦を作る人が少なくなったことから今は稲藁を使用しているとのこと。出来上がったばかりの大人形は全身に挿された杉の小枝の葉が青々としているようですが、ほどなく茶色くなっていくのだと。新たな大人形になって1ケ月ほどで訪ねましたが、もうすっかり茶色くなっていましたね……。

代田の大人形(2023年5月)
代田の大人形(2023年9月)。顔部分も毎年作り直し→描き換えるらしい

股間には藁で作られた立派な男根が見えます(秋田の人形道祖神でも男女の陰部はしっかり作られているものが多いみたいです。魔除けだからなんでしょうね)。この藁製の男根を女子学生がキャーキャー言いながら測っていった、という話を以前ネットで見かけました……あれ何処の何の記事だったんかな。。

今回、たまたま大人形の傍で近所のおばあちゃんたちがお喋りしていて、少し話を聞かせていただいたのですが。
「よく(大人形を)写真に撮ってく人が居るのよねぇ」
と、やや不思議な様子。。
いえ、おばあちゃん。これ珍しい習俗なんですよ?茨城県南地域ではおそらくココだけだし、茨城県全体でみても類例は少ないはずですよ!?(もしかしたら県北の常陸太田市里美地区の「かかし祭」のルーツは近いところにあるんじゃないかというのが私自身の推測で…超個人的に人形道祖神と近い匂いを感じた:爆)
そして、「人形作りは男衆の仕事」というのも、おばあちゃんの話や視点に表れている印象を受けました。やはり、自分の手で作るんじゃなくて、作られていき据え置かれるのを傍で見ている立場というか。
こんなやりとりの中で、「地元の人には当たり前というか何の不思議もないことだけど、他地域の人間から見れば驚異に映る」事例はままある、というのをしみじみ実感しましたね…。

長者峰の大人形(2023年5月)

長者峰の大人形の顔は変わらない気がしてます。毎回同じお面なのかも…。
3mほどあり、代田のものより大きいとのことです。
そして、このロケーション。予備知識がなかったら、早朝や夕方、夜に出会ったら、おそろしくビックリするだろうと(切実)。

今後とも続いてほしい民俗行事です。

以上、秋田まではなかなか軽い気持ちでは行けないけれども、ちょっと頑張れば行けるところに存在する人形道祖神を見学してまいりました話でした。

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