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4-2 抗悪性腫瘍薬/支持療法①

抗悪性腫瘍薬


前項の通り、抗がん薬は有害事象は起こるものと考えて、対策を取ることが重要です。
薬物の薬理作用から起こると想定される有害事象について、説明します。

化学療法薬と有害事象

がんの化学療法で使われる化学療法薬(殺細胞性抗がん薬・細胞障害性抗がん薬)は、がん細胞は細胞増殖が盛んに行われている特徴を利用して、細胞増殖を止めることでがん細胞を抑える薬物です。
したがって、細胞増殖が盛んな正常細胞にも作用する可能性があります。
細胞増殖が盛んな細胞としては、下記のようなものがあります。
・造血幹細胞:骨髄の中にあり、血球(白血球、赤血球、血小板)のもととなる
・消化管粘膜:(口の中を火傷した時、再生されることからも、細胞増殖が盛んだと理解しやすいかと)
・毛母細胞:毛根部分にあり、毛母細胞が細胞分裂することで、頭髪・体毛が成長している
・生殖細胞:

有害事象の重症度評価

有害事象の重症度を、客観的に評価するための尺度として、CTCAE が用いられます。
ーーー 例) 「便秘」
Grade 1:不定期または間欠的な症状 便軟化薬/緩下薬/食事の工夫/浣腸を不定期に使用
Grade 2:緩下薬または浣腸の定期的使用を要する持続的症状 身の回り以外の日常生活動作の制限
Grade 3:摘便を要する頑固な便秘 身の回りの日常生活動作の制限
Grade 4:生命を脅かす 緊急処置を要する ーーー
化学療法中の患者様に対して電話支援をする場合の対処など、CTCAE の階級が参考にされています。


化学療法の代表的な副作用

・造血幹細胞: 骨髄抑制
・消化管粘膜: 口内炎、下痢
・毛母細胞: 脱毛
・生殖細胞: 妊孕性
 について、説明する。


○骨髄抑制

血球の元となる造血幹細胞は、細胞増殖が盛んであるため、化学療法で障害される可能性があります。

造血幹細胞が障害を受けると、血球減少が起こります。
影響をうけた血球毎に、本来の機能が果たせないため、副作用症状につながります。

赤血球が減少すると、組織に酸素を送り届けることができないため、貧血が起こります
白血球が減少すると、免疫の働きが不十分となり、感染症にかかりやすい、易感染性が起こります
血小板は、出血時に集合し血栓を形成する一次止血に関与しているため、不足すると出血傾向が起こります

血球の寿命はそれぞれに異なるため、有害事象の発現時期も異なります。

がんの薬物治療を行う時に、最も問題となる用量制限毒性(DLT, dose limiting toxicity)が、「血球減少」です。

用量制限毒性とは‥「用量制限毒性」にあたる有害事象がでたら、薬の投与量を減らす

つまり、血球減少が出たら、用量に注意している、という原則を理解しておきましょう。

・赤血球減少

赤血球は、組織に酸素を運ぶ役割を担っているため、減少によって、貧血になる可能性があります。
また、赤血球の寿命は、約120日であるため、貧血の症状は、投与後、2週間後〜1ヶ月後に出てくる可能性があります。

貧血に着目して、アセスメントすべき症状としては、
顔色、めまい、息切れがあります。特に、高齢者では転倒予防にも注意が必要です。

女性の場合は、月経について、普段との違いも大切な情報です。

また、血球減少の確認のため、血液検査が行われます。

貧血に着目した対策の原則としては、生活での工夫について説明することや、血液検査などで早期発見に努めることです。

日常生活では、症状が強い時は、安静にすることが大切です。
・十分な休息・睡眠
・だるい時は、無理をしない
・体のだるさや立ちくらみからの転倒に注意

貧血が高度の場合、輸血が行われることもあります。

・白血球減少

白血球は、体を異物から守る免疫作用において、非常に重要な役割を果たしています。

治療後1〜2週間後に、最も少なくなるため、その期間は、特に、感染症に注意が必要です。

白血球減少の対策として、血液検査で早期に発見することのほか、日常生活での対策を徹底してもらうことが非常に大切です。

・手洗い・うがい
最も基本的な感染症対策として、「うがい」「手洗い」は大切です。

・体調管理
毎日、体温測定をして、体調を記録するとともに、体調不良の人との接触は避けましょう

・外出
必ず人混みは避け、外出するとき・受診するときは、マスクを着用してもらいましょう。

・食事
食品からの感染を防ぐためには、食中毒対策の基本と同様です。
食品の消費期限を確認して、長期間の保存は避けましょう。また、調理の際も、衛生対策に配慮しましょう。

造血器腫瘍の治療や、高度に白血球が減少している時などには、食事の制限が必要なあります。そのときは、刺身などの生物や、発酵食品(自家製の糠漬けなど)の禁止の指示がでる可能性があるので、指示の内容を確認しましょう。

・清潔
シャワー・入浴は毎日して、清潔を心がけましょう。

・外傷
傷口から病原菌侵入を防ぐため、外傷を防ぐことも大切です。

・ペット
噛まれたり・引っ掻かれたりしないように対策が必要です。また、口移しも禁止です。

その他、予防接種を受ける場合には、事前に相談してもらいましょう。

がん治療中に、特に注意すべき状態に、「発熱性好中球減少症(FN)」があります。

好中球は、侵入した異物を貪食するため、感染から守る重要な役割を果たしているため、好中球が減少すると感染症の発症率が高くなります。

①好中球が 500 /μL 未満、または、1000 /μL で48時間以内に 500 /μL に減少すると予想される場合
②腋下温が 37.5 ℃以上
①②を満たす状態が、FN です。

適切な処置をしないと、重篤な感染症に繋がり、致命的であるため、迅速な対応が重要です。

他の発熱疾患との鑑別も必要ですが、好中球減少時に起こる発熱は、ほとんどが感染症による発熱であり、迅速な対応が必要であるため、FN 対策として、以下の対応が行われます。

①好中球減少のリスクが高いレジメンでは、G-CSF を予防投与する
(FN 発症率が20%以上のレジメンでは1コース目から G-CSF 投与が推奨されている)
②あらかじめ、抗菌薬や解熱薬を処方しておき、37.5℃以上の発熱の時には、「まず、薬を服用して、病院に連絡してください」と指導しておく

まず、適切な抗菌薬を速やかに開始することが重要です。指導内容を確認し、患者様が正しく理解しているか確認が必要です。

・血小板減少

血小板は出血時に集合して血栓を形成する、一次止血において、重要です。
そのため、血小板が減少すると、出血傾向になる可能性があります。

血小板の寿命は10日であり、投与後2~3週後に血小板が最も低くなるため、注意が必要です。

定期的に血液検査を行なって早期発見に努めるとともに、生活上での注意を説明しておく必要があります。

出血予防に配慮してもらうことが重要です。

重篤な場合は、輸血が行われることもあります。

○口内炎

がん治療に伴っておこる口内炎としては、以下のような理由があります。
・粘膜障害:抗がん薬によって、粘膜が障害されるために、口内炎が起こる
・免疫抑制:化学療法薬によって免疫が抑制されるため、二次感染が起こり、そのため、口内に炎症が起こる
・放射線治療:放射線照射によって粘膜が障害される

口腔内の粘膜細胞は、細胞分裂が活発であるため、化学療法薬の影響が出やすく、口内炎は、食事困難にもつながるため、治療前から歯科との連携が重要です。

化学療法薬による口内炎は、薬剤投与後7〜10日後にピークとなり、二次感染などがなければ、14日程度で改善すると言われています。
免疫が低下している時には、口腔カンジダやヘルペスウイルスによる二次感染を起こし、長期に持続することがあるため、注意が必要です。

基本的な対策としては、まずは良好な口腔環境を保つための口腔ケアが重要です。
食事が食べられない時でも、うがい・歯磨きは必要です。
柔らかい歯ブラシで優しくブラッシングを心がけましょう。
うがい液を工夫することで、しみないための対策も可能です。

治療には、炎症を鎮めるような含嗽薬や鎮痛薬を用います。

感染対策には、抗真菌薬や抗ウイルス薬を使います。

口腔の炎症を鎮めるためには、副腎皮質ステロイドの口腔用軟膏が用いられます。炎症を鎮めるためには、抗炎症作用に優れた薬ですが、長期に使用すると免疫抑制作用があるため、感染症は悪化する可能性があります。そのため、自己判断で使用するのではなく、医師の指示のもとで使用することが重要です。

食事が食べられるような工夫についてもアドバイスも重要です。

○下痢

化学療法によって起こる下痢には、早発性遅発性に大別できます。

投与後すぐから起こる早発性の下痢は、腸管運動が刺激されて起こる下痢です。腸管の蠕動運動が活発になるため、腸管で水分が吸収されずに排出されるため、下痢となります。

遅発性の下痢は、粘膜が障害されることで起こる下痢や、免疫低下のための感染症から下痢が起こるものです。治療開始10〜14日後に起こりやすいとされています。

特に、下痢を起こしやすい化学療法薬としては、「イリノテカン」があります。これは、急性・遅発性、両方の下痢を引き起こします。

他にも、代謝拮抗薬の中でも 5-FU 関連の薬剤や、プラチナ系薬剤が、下痢を起こしやすいと言われています。

下痢のアセスメント項目としては、化学療法前の状態と比較して、下痢の回数・排便量・性状(水様、血便など)を観察してもらいましょう。

下痢の時には、水分摂取を控える方も多いですが、脱水を防ぐために、適切な水分摂取を行うことが重要です。

  • お腹を冷やさないように、カイロなどで温める

  • 水分摂取を心がける(冷たくない飲料)

  • 消化が良いものを、少量ずつ、回数を増やして食べる

  • 排便時は肛門周囲をトイレットペーパーで強く擦らないようにする

  • 刺激のつよい食品は控える(乳製品・カフェイン含有飲料・アルコール・高脂肪食も控えた方が良い)

水分が取れないなど脱水を伴う場合、1日4回以上の下痢、発熱や血便を伴う下痢、夜間の激しい下痢などの場合は、できるだけ早く病院に連絡するように伝えておくことも重要です。

<早発性の下痢>・・・機序:腸管の蠕動運動が亢進

早発性の下痢は、腸管の蠕動運動が亢進して起こる下痢であり、激しい腹痛や流涎、流涙などのコリン様症状(副交感神経刺激症状)も併発します。
腸管運動が亢進して起こっているため、治療には、腸管運動を抑制するための抗コリン薬の注射などが用いられます。

<遅発性の下痢>・・・機序:腸管粘膜の障害による、浸透圧性下痢

遅発性の下痢の場合、粘膜障害のため細胞の内容物などが消化管管腔に放出されており、浸透圧が高くなっているので、浸透圧を下げようとして細胞内から水分が分泌される、浸透圧性下痢が起こります。

そのために治療薬としては、収斂(しゅうれん)薬や吸着薬が用いられます。
収斂薬は、腸粘膜に皮膜を作って分泌や腸管の刺激を抑える薬で、タンニン酸アルブミンや、次硝酸ビスマスがあります。
吸着薬は、過剰な粘液や水分を吸着して排除する薬で、天然ケイ酸アルミニウムがあります。

また、腸管運動抑制薬として、ロペラミドや抗コリン薬も用いられます。
ロペラミドは、腸管に直接作用して、腸管運動を強力におさえます。

高度な場合には、コデインを下痢の治療に使用することがあります。(コデインの副作用で便秘が起こる。腸管の蠕動運動を抑制するため)

下痢が改善しない場合は、細菌性下痢に対して、ニューキノロン系抗菌薬の投与が行われます。

また、漢方薬である半夏瀉心湯は、イリノテカンによって起こる下痢の重篤度を改善する効果があるため、用いられています。

・・・(参考)・・・
<イリノテカンと下痢>
イリノテカンの活性代謝物 SN-38 が下痢の原因
・SN-38 は、肝臓でグルクロン酸抱合され、胆管から腸内へと排出される
 →腸内細菌で脱抱合されると、再度吸収される(腸管循環)
 →この結果、体内に長く留まる →下痢のリスクが上昇

<イリノテカンの下痢対策>
・経口アルカリ化薬・・・炭酸水素ナトリウム
  活性代謝物 SN-38 はアルカリ下では毒性が低いため
合わせて、ウルソ(グルクロン酸抱合体を維持し、SN-38 の排泄を促す)も使われる
→腸管内が酸性に傾かないように、酸性食品の摂取を制限することがある(整腸剤も含め)

・半夏瀉心湯
脱抱合を阻害して、排出を促す

(参考)イリノテカンと下痢に関する CQ
Q. 以前から、酸化マグネシウム【緩下剤】を飲んでいる人は?
A. 原則、酸化マグネシウムは、そのまま継続
(排便を促して、SN-38の排泄を促すことで、下痢を防ぐ効果があるため)

※下痢に対して、便秘の薬を続けるのは不思議かもしれませんが、非常に理にかなっていること(良いこと)です(以上、臨床で遭遇するため解説)

○脱毛

毛根部では毛母細胞が分裂・増殖しており、これにより、毛髪が成長しています。

化学療法薬の影響で、頭髪だけでなく、体毛も脱毛する可能性があります。

脱毛を起こしやすい化学療法薬には、タキサン系アンスラサイクリン系があります。

抗がん薬投与開始2〜3週間後に頭髪量が減少し始めます。抗がん薬投与終了3〜6ヶ月後に、発毛開始し、8ヶ月〜1年後に回復することが多いです。

育毛剤については、脱毛の予防効果は明らかにはなっておらず、治療前や治療中に予防的に使うことは推奨されません。
マッサージについても、効果は不明であると、されています。

地方自治体によっては、医療用ウィッグ購入の助成金制度がある場合もあるので、そのような情報提供も、適宜必要となります。

○妊孕性

がん治療では、手術・薬物療法(化学療法・内分泌療法)・放射線療法によって、妊孕性がダメージを受ける可能性があります。特に、思春期・若年成人(AYA世代)における妊孕性温存は重要な課題です。

手術で生殖器官を切除することもありますし、放射線によって性腺機能不全の可能性もあります。

薬物の影響については、生殖細胞は細胞増殖が盛んな細胞であり、化学療法薬では、無月経や無精子症のような性腺毒性や、性腺機能低下の可能性があります。
特に、アルキル化薬に注意が必要です。生殖可能な年齢に投与する場合、総投与量が増加するとリスクも増加するため、投与量の管理が必要です。(→転院時には、前院での治療内容の把握が重要)
もちろん、薬物によってリスクは異なり、放射線療法との組み合わせによっても、リスクは異なります。レジメン毎に、妊孕性の影響の有無を評価する必要があります。

患者様の挙児希望や妊孕性温存療法が可能かによって、個別に適切な方法が選択されます。
適切な情報提供を行い、患者様の意思決定を支援することが重要です。

また、薬物の影響としては、生殖可能性への影響もありますが、妊娠成立後の影響もあります。

薬物によっては奇形の可能性もあるため、妊娠する可能性のある女性、および、パートナーが妊娠する男性に対しては、治療中、および、治療後一定期間は、避妊の指導が必要です。

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