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物語の種⑨

⑨近くて、遠い、夏休み。

 西澤は難民支援のスタッフをしている。かつての彼はエゴの塊であった。しかし、離婚をきっかけに彼のなかで何かが変わった。勤めていた大手企業をあっさり退社したかと思えば、彼は使命感に駆られるがごとく、現在の仕事、難民支援のスタッフをはじめたのである。
 日本で数年ぶりに過ごす夏。西澤は元妻の綾子から連絡を受けた。綾子は「家出した息子の源太を連れ戻してほしい」と西澤にお願いを頼んだ。ただし源太には<親子関係を内緒にする>いう条件つきであった。

 西澤は渋谷で徘徊している源太と遭遇した。高校生になっていた源太と出会った瞬間、西澤は自分自身が「幸福を感じていること」に気づいた。源太と親子関係を築きたいという気持ちにもなった。だが、この気持ちは自分のエゴではないかと西澤は自問自答する。一方で、源太も西澤との時間を楽しんでいた。だが、源太の現在の父親(元妻の夫)が二人の関係をよく思っていなかった。
 夏が終わるころ、西澤は源太を家に無事帰した。「源太には源太の人生がある」と彼は父親としてそう思った。そして、再び海外へ出発した。西澤の父の気持ちが届いたのか、源太は医者の道を志すようになった。

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