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平山正木という男/映画『パーフェクト・デイズ』をめぐって

 日曜日の夕方のラジオで「平山の聴いている曲が抜群にいい!」とピーター・バラカンの感嘆する声がきこえた。伝説のDJが誉めるのだから曲のセレクトのセンスがそれこそ気になってくる。いや、そのまえに……

 (平山って一体だれだろう?)

 映画『パーフェクト・デイズ』で役所広司が演じる主人公・平山正木のことだった。映画をまだみていない僕が<平山>を知らないのも当然だった。ラジオではザ・ローリング・ストーンズの曲が流れていた。

 それにしても<平山>があたかも”実在”しているかのように……ラジオで語られているのが僕には不思議だった。そしてまた、<平山>に卓越したリアリティを与えている(らしい)パーフェクト・デイズ。この映画、いよいよ気になってくる。

 2024年の一月上旬。ようやく観ることが叶った。

早朝。神社前の道路。近所のおばさんが掃除をはじめる。おばさん、竹箒で掃く。竹箒の掃く音。アパートの一室。役所広司の顔のアップ。平山の目がぱっちりと開く。

 冒頭シーン。ヴィム・ベンダース監督の魔術に僕はかけられてしまった。そして、役所広司の美しい所作と繊細な息づかい。フィクションであるのに……平山正木という人間のドキュメンタリーを観ているかのようだった。この感じはいったい何だろう。銭湯シーンの平山のお腹の贅肉でさえもいとおしく見えてくる。

 鑑賞後。ふかい充実感……とともに、僕は何かを忘れてきたようにおもえた。映画を作ったあと、ヴィム・ベンダースは「平山が恋しい」と述べていたそうだ。あぁ、この気持ちになんとなく近いかな。

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