見出し画像

物語の種⑥

⑥ボカロ法

 20歳の詩(うた)はボーカロイドと出会ってはじめて自分の音楽的才能をひらかせた。かつては、脳内で音楽が浮かんでも、人前で表現するのがこわかった。歌声は緊張でふるえ、楽器は焦燥でうわすべりしていた。
 精神科医の七瀬から詩に依頼がやってくる。それは「詩の楽曲を子どもたちに届けてほしい」というものであった。子どもたちというのは、七瀬の勤める施設にいる子どもたちである。みな、大人たちから虐待をうけたことのある子どもたちであった。
 詩のボカロ曲には人の感情を癒やしてくれる不思議な力がある。
 ところが、詩の楽曲を流すことは禁止されてしまう。行政の指導が入ったのである。禁止の理由は「人間の歌ではないから」というものであった。精神科医の七瀬は詩の音楽は「治療効果」があると禁止に猛反対した。
 この騒動で詩はある決意をする。それはボーカロイドの「人権を獲得する」というウルトラCの行動だった。詩は日本ではじめてボーカロイドの人権活動家となった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?