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ファーストペンギンの生存率
世界にはつなぎ目がある。
人々にとってわかりやすいつなぎ目は、夕方から夜になるあの瞬間だろう。
薄い青色と橙色と紺色。
つなぎ目を縫い、解き、広げていく。
そして世界からつなぎ目が消える。
空に関してはそう説明するのが人々にはわかりやすい。
だた、世界にあるつなぎ目は空以外にもたくさん存在しており、我々はそのつなぎ目の管理をしている。
管理と言えば聞こえはいいが、悪用する者をつなぎ目の中に閉じ込めて世界から消し去るのだ。
つなぎ目の管理者が悪用する側になることもあり、その場合管理者は他の管理者に追われ、捕まると存在そのものを抹消される。
つなぎ目の中にも外にも存在しない者になる。
それはつまり、世界から本当の意味で消えてしまうということだ。
まあそんな、危ない橋を渡ってまで悪用する管理者がいるとは私には思えないが。
細い路地を歩いて新しいつなぎ目が出来ていないかチェックをして回っていると、光の届かない場所なのに青白い光が目に入ってきた。
つなぎ目、発見、と
私は、その光に向かい、つなぎ目がどの程度までほどけているか確認する。
つなぎ目はネズミが一匹通ることが出来るくらいの大きさにほどけているようだ。
特殊な針をポシェットから取り出してほどけているつなぎ目を縫い始める。
空間と空間。
内と外。
輪郭だけが白く光る糸で丁寧に縫う。
この作業もなれたものだな、と頭の隅で考える。
三分程で縫い終わり、私は次のつなぎ目を探す。
路地はまだまだ続いている。
私一人で今日中に確認し終えることが出来るだろうか。
出来る出来ないではなく終わらせないといけないのだが、早く終わらせて隙間喫茶に行ってご飯を食べたい。
食べ終わったら、ついでに空間裂け目コーヒーを飲んでそれからまた次の指令をうたた寝しながら待つ。
いつもの流れ。
世界を維持する私たちの役目。
鼻歌交じりで路地を行く。
紅いうさぎがどこからかひょっこりと私の前に現れる。
緊急招集……?
なんだろ
紅いうさぎが裂けて司令官が映し出される。
サンナナメインストリートに強大な裂け目
近くにいる者は至急向かえ
それだけ流れると、紅いうさぎごと映像も消えた。
私は指示通りサンナナメインストリートに急行し、他の管理者たちと合流した。
なにこれ
これって……裂け目っていうか
それよりもあの黒いのはいったい
内側からほどかれてないか?
まって、何か出てくる……!
周りにいる管理者がざわめく。
それぞれ別のことを口にしているので、バラバラで気持ちが悪い。
でもその気持ちの悪さは、裂け目からゆっくりとこちら側へ浮上してくる奇妙な物体には及ばなかった。
あれはこちら側に出て来させてはいけないものだ、と直感する。
たじろいで動けずにいる他の管理者を一瞥し、私はポシェットから特大の針を取り出して裂け目に走る。
私に続いて他の管理者も動き出す音が聞こえた。
浮上してくる物体は黒い何かを巻き散らしながら、私たちの邪魔をしてくる。
裂け目を縫い終わる頃には、最初に駆けつけた管理者たちは身体の一部が黒く石化していた。
ただ、一人の管理者だけは身体全てが石化しており、生命を失っていた。
その色は変わりゆく空を繋ぎ合わせたような複雑なものだったという。