センベツ
子供たちが集められ、教壇にひとりの大人が上がる。
その大人はひらりと優雅に一礼し、子供たちに話しかける。
ここにひとつの紙があります
文字ひとつ書かれていない真っ白な紙です
しかしこの紙にはたくさんの情報が入っています
君達にはそれを見つけ出してほしい
大人は言い終わると、教壇の少し横にある木製演台にその紙を置いて部屋から出て行った。
そしてカチャリと鍵がかけられる音が響く。
子供たちはその音を確認すると、木製演台にわらわらと近寄り大人の残した紙を見る。
その紙は大人の言うように、文字ひとつ書かれていない紙だ。
裏も表も真っ白で、情報があるとは到底思えない代物だ。
子供たちは口々になにこれ、なにもないよ、うんなんにもない、等々似たような意味のない言葉を交わす。
そんななか一人の子供が水を手に取って紙に近寄り、紙の上にそれをぶちまけた。
うわっ
きゃっ
小さな悲鳴がいくつも起こる。
何も言わずに水をかけたものだから、その近くにいた子供たちにも軽く水がかかった。
なにするのよと責めるものが大半であったが、一部ではなるほどと感心するような声が上がる。
しかしその声も直ぐに落胆に変わる。
水をぶちまけた子は、なんだよ違うじゃんとぐちぐちと言われ続けるが、その横を通って濡れている紙に近づく子がひとり。
手にはアルコールランプとマッチ箱を持っている。
後ろの方でギャーギャーと喚いている子供たちを尻目に、マッチを擦りアルコールランプに火をつける。
濡れた紙を持ち上げてその火の上にかざす。
もちろん燃えない程度にかざす。
しかし、紙が渇いてきても紙に変化はない。
それを見ていた周りの子供はまた落胆の声を上げる。
そして紙を持っている子の後ろにいる子がその子を罵声と共に軽く押す。
すると紙が火に触れてしまい静かに燃えていく。
慌てて床に紙を落とし靴で踏みつけ火を消すが、紙は半分以上燃えてしまい紙の意義をもたないように思えた。
子供たちは燃えた紙と押した一人を交互に見ると、興味をなくしたようにそれぞれ部屋の方々へと散っていく。
そんななか燃えた紙に一人が近づく。
今までずっと部屋の隅にいた一人だ。
その子は燃えていない部分にそっと触れ、そしてまた部屋の隅に戻っていった。
それから数時間経った頃、先程と同じ大人が部屋に入って来た。
そして最後に紙に触れた一人と、ずっと部屋の隅で動くことのなかった一人、最初にそっと様子だけ確認し近くにはいたけれど何も言葉を発しなかった一人が呼ばれる。
その三人は大人に連れられて部屋から出て行く。
そしてまた鍵の閉まる音がする。
三人のうち二人は、自分が何故大人に呼ばれたのか理解していた。
大人の後ろを三人の子供がついて歩く。
大人が『T』と書かれた部屋の前で止まる。
大人は、最初から動くことのなかった一人をこの部屋に送り出すとまた歩き始める。
すると今度は『P』と書かれた部屋の前で止まり、最後に紙に触れた子供を送り出す。
残った一人は不安そうに大人のあとをついていく。
その一人が、自分が何故呼ばれたのかわかっていない者だった。
大人はそれに気がついていたのか、歩きながらその理由を話す。
君には何の力もない
少なくとも特別な力はないでしょう
それでも君が呼ばれたのにはしっかりとした理由があります
君は仲間が失敗をしても非難をすることはなかった
すくなくとも今まで五回の実験をしましたが、君は一度も非難していない
そして同調もしてない
君が呼ばれた理由はそこにあります
話しが終わるのと同時に大人が止まった。
止まった部屋には何も書かれていない。
君が今日から入る部屋です
何も書かれていないけれど
ここは『管理者』の部屋です
大人は扉を開いて子供に入るように促す。
子供の後を追うように大人も部屋の中に入っていった。