ノーリターン
みんなみんな、あの子のことを好きになる。
まるで何かの呪いにかかっているみたいに、あの子に会った人はみんなあの子を好きになる。
あたしだけが違うのは、あたしがあの子の双子の片割れだからなのだろうか。
双子と言っても二卵性なので、そこまで似ていないことも要因のひとつなのかもしれない。
とにかく、あたしとあの子は双子で、あたしはあの子が好きじゃない。
あの子があたしを好きかどうかは、正直どうだっていいことだった。
確かなことは、あの子があたしから周りの人たちを奪っているということだ。
故意ではないと思いたいけれど、それもこれだけ続くと……という感じだ。
思い出せる限りで一番最初に奪われた者は、きっと母親だったと思う。
そもそも母親があたしたちに与えていたであろう愛情も、均等ではなかった。
あたしよりも、あの子の方がより多くの手間暇をかけられていた。
あたしがとろいから、キビキビと動いているあの子の方に目が行ったのだろう。
もともとあたしがあまり問題になるような行動をとることが、あの子よりも少なかったからかもしれない。
あの子はよく動くからかすり傷や、その他の怪我が絶えなかった。
かといって、喧嘩ばかりしていたかというとそんなことはなく、どちらかというとその見た目の美しさからお姫様のような扱いをされていた。
父親も、学友たちもあの子を好いていたし、可愛がっていた。
それはもうとっくに成人した今でも変わらないのだが。
あたしはとにかく、そんな誰からも好かれるあの子から逃れたくて、就職と同時に家からも土地からも去った。
そしてそれからというもの呼ばれなければ、お盆も年末も帰っていない。
まぁ呼ばれたとしても、あの子が帰るからいいでしょと言って帰らないことの方が多いけれど。
あたしが帰らないのは、あの子に会いたくないというだけではなく、あの子に会わせたくない人物がいるからだった。
その人物は何度もあたしの両親や兄弟に会いたいと言ってきたが、その度なにかと理由をつけて断って来ていた。
でもそろそろ、さすがに限界なのかもしれない。
あたしが挨拶はしなくてもいいと言っても、彼はよくないのだから。
よくわからない『けじめ』という文化が彼にはあるようで、あたしがそれを突っぱねてしまっては先へ進めないのだ。
とはいえ進んだところで破談になる道しか、あたしには見えていないのだけれど。
深くため息を吐く。
携帯が光っている。
ポップアップには、彼からの連絡の内容が見て取れる。
お盆休みに帰るしかないか……
私の重い気持ちのこもった声は、扇風機の風に乗って暗い窓の外へと消えていった。