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消えた旅人


旅人が世界から消えてしまい、季節が巡らなくなってしまった。

ある場所は春で止まっている。

そこは草木も作物も一定しか育たず、夜は肌寒い。

しかし春特有の柔らかい日差しや風につられ、ゆったりとした人々や動植物が定着した。

また、ある場所では夏で止まっていた。

強い日差しのせいで育つ植物は限られてしまった。

弱い草木は枯れていき、それは動物も同じであった。

夏の日差しと暑さに負けるものは淘汰されていったのだ。

それでも残るものはあり増えていき、主に激しい人々や動植物がその場所を好んだ。

秋で止まった場所は、特に動植物の変化はなかったようだ。

変わらないことを望む者が、その場所に集まり定着していった。

冬で止まってしまった場所は、他の場所とはかなり違っていた。

そこはある種の隔離された場所になってしまったのだ。

外から入ることもできなければ、中から出て行くこともできない。

大きな雪の壁で閉じられてしまった。

そしてその雪の壁は、何をしても溶けることはなく壁をよじ登ろうにも上が見えない。

雲のその上まで反り立っている。

もちろん、登った者はいない。



この冬になってしまった場所であるが、その一部には秘密があった。

雪の壁の中にもう一つ、雪の壁がある場所がある。

そこには普通のヒトは存在していない。

そこにいるのは世界から消えた旅人だ。

雪の壁の中の雪の壁。

その内側には四季が存在した。

旅人が旅人のために作った場所。

世界である。

旅人のいない外の世界は季節が止まり巡ることはないが、旅人のいる、旅人しかいない内の世界は季節が巡る。

もしこれを外のヒトが知ったら怒り狂い、雪の壁を何としてでも崩そうとするだろう。

しかし知ったところでヒトにその壁を壊す術はない。

旅人ではないヒトには無理なのだ。

旅人はヒトに見切りをつけた。

旅人は彼等だけの世界を創り出しヒトと関わるのを止めた。

旅人は旅人のためだけにその力を使うことに決めたのだ。

結果、世界から旅人が消えた。

これが、季節が巡らなくなった星の真相である。



その星のヒトはもう旅人という言葉を知らない。

季節という言葉を知らない。

今の状況が普通だと思っている。

一方で旅人は、ヒトと旅人のことを忘れていない。

雪の壁の外に出てはいけないと、今もずっと伝え続けている。

そして、もし雪の壁が崩れたら急いで逃げなさい、と。

旅人はヒトの世界に存在してはいけないと、そう伝えている。








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