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半デジタル


君のことについて、君自身はどれくらい知っているのだろう。

きっと忘れてしまったことの方が多いのだと思う。

なにせもう何十年もデジタルの世界に閉じ込められているのだから。

こちらでの本来の君自身のことなど忘れていることだろう。

デジタルの世界に君ほど長くとどまっている人間も珍しい。

いや、とどまっているというのは間違いか。

君は閉じ込められているのだから、自らの意思でとどめっているわけではない。

あのセキュリティの最下層まで潜り込んで、そのまま戻れなくなってしまった。

あれは国の失敗だった。

情報を守るために人間自身をデジタルの世界に送り込んでウイルスを駆逐させる。

それは、新時代のセキュリティソフトと呼ばれた。

人自身がセキュリティソフトになる、そういう政策だった。

最初は上手く事が運んでいたが、次第に対応できない未知のウイルスがあらわれて現実世界にも影響が出てしまう。

そのウイルスが国のセキュリティに入り込んでしまい、君はそれを駆逐するために数人と共にそこに入り込んだ。

ひとつ深く潜るたびに一緒に入り込んだ者達が脱落していく。

比較的浅い部分で脱落した者は、脳に致命的損傷を負うことなく現実世界に戻ることが出来た。

深い部分で脱落した者は、例え身体に障害がでていても現実世界で覚醒出来たのなら良い方で、覚醒出来ない者の方が多いのが実際のところだ。

君は脱落はしなかったが、底から浮上することが出来ない。

だから現実世界での君は、まだデジタルの世界に繋がる装置の中にいる。

もちろん現実世界では君を最下層から救出しようとしているが、そうそう最下層までは誰も辿り着くことはできない。

少なくとも人間には無理だった。

何年も時が過ぎて、やっと国は方針を変えた。

最下層まで辿り着いた君のデータを抜き取って、新しいAIを作成した。

セキュリティーマンのコピー。

現実世界ではそう呼ばれている。

でもそのAIもなかなか最下層には辿り着けなかった。

壊れては作り直して、の繰り返しだ。

何千万回と繰り返してAIが最下層まで辿り着いた時、そのAIは驚きという感情を知った。

最下層では君がまだウイルスと戦っていたのだから。

国の情報が洩れなかったのは君のおかげだったと政府の人間は知ることになるのだが、君は発見されてからも何年も救出されることはなかった。

今でも救出されていない。

それは君が、君自身がセキュリティの一部になってしまったからだ。

君を救出してしまうと、セキュリティが崩れてしまい情報が流出してしまう。

だから政府は君を発見したことを隠し続けている。

そして現実世界の君の肉体を抹消しようとひそかに動いている。

だって君はもうデジタルの世界と融合しているようなものだから、現実世界の肉体は必要がないと考えられているのだ。

ただ正直なところ現実世界の肉体が消えることで、デジタルの世界にいる君自身も消えてしまうのではないかと僕は考えている。

だから僕は出来るだけ政府の邪魔をしているのだけれど、それももういつまで持つかわからない。

どうしてこんな話を、もう自身が人間だったことを覚えてもいないであろう君に話しているのか。

それは……、人間の言葉のように伝えるのであればこうなる。


オリジナルを守るのは、コピーの役目だろう?


少なくとも自分もオリジナルだと思い込んでいるコピーはそう考えるさ。





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