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月艇
子供の笑い声が聞こえない国は不幸である。
ボクたちはそれを理念として活動をしていた。
ボクたちは国の外、星の外側からそれを監視している。
それがボクたちの仕事だから、四六時中、寝ている時以外は全部星々の国々を監視しているのだ。
今日もまた以前からグレーとされていた国の監視をしていた。
その国では三年ほど前から子供の笑い声が聞こえなくなっており、重要監視国のリストに載っていた。
子供の笑い声が聞こえない、とはいうものの、全く聞こえないわけではない。
子供の笑い声は数値化されており、一定を下回ると聞こえないとされてしまうだけだ。
実際は国の中、一定の場所では笑い声が絶えないところもあるだろう。
しかし問題は国全体の笑い声なのだ。
あー、この国もう駄目だね
ん……本当だ、ほとんどゼロに近いね
じゃあ早めに保護しに行かないと
今動かせる艇ってどれくらいあったっけ
んー、と……二艇かな
ブラックになった国から子供たちを保護するためにボクたちは、必要なものを次々と言葉で確認し紙にまとめて上に報告を入れる。
すると直ぐに出発するように指示を受ける。
ボクたちは、二艇合わせて数十名ほどで、急ぎその国に向かう。
その国に着くと既に夜のとばりが下りた後だった。
朝になる前にこの国の子供全てを保護して出発しなければならない。
ボクたちはそれぞれ艇を降りて、それぞれのやり方で子供たちを集める。
ある者は音楽で、ある者は光で、またある者は食べ物で、それぞれの得意とするモノで国中の子供を集めるのだ。
集められた子供たちはボクたちの用意した扉をくぐる。
それだけで子供たちは艇の中へと移動することができる。
順調に子供たちを集めて残りが二百人くらいの時、国の大人たちが異常に気がついてボクたちに牙をむく。
だけどボクたちは粛々と子供を集め続ける。
銃で撃ってくる大人もいたけれど、銃じゃボクたちは止められない。
そもそも大人たちの目に映っているボクたちは、ボクたちであってもボクたちではない。
だからボクたちはなんの心配もせずに子供たちを集め続ける。
ある大人が子供の腕を取ってボクたちの方へ行かせないようにした。
残りはその子だけだった。
ボクたちの中に、その一人を置いていくということは考えられなかったのでその大人に告げる。
子供たちは自らの意思でこの国から去るのです
理由は、この国に残っても子供たちに幸せはやって来ないと子供たちが知っているからです
この国には子供の笑い声がない
だからボクたちがここに来て、子供たちをこの国から保護しているのです
その子の幸せを願うのなら、その手を離しなさい
大人は迷っていたようだが、数分後に腕から手を離した。
おかげでボクたちはこの国の子供たち全員をこの国から保護することができた。
ボクたちと子供たち全員が艇に乗り込んで、夜明け前にこの国を発つ。
もしかすると起きていた大人たちには艇が見えていたかもしれない。
ボクたちは二度とこの国が子供から笑い声を奪うことのないよう願いながら飛び去った。
後にこの国ではボクたちのことをこう呼んだ。
『月艇』
そして子供たちには、こう話すようになったという。
月艇が来て子供を攫ってしまうから、あんたたちは大きな声で笑って過ごしていればいいのよ、と。
それはボクたちが去ってから何世紀も伝え続けれらている。
ボクたちは今日も星々の国々を監視している。