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とある雲人のお話し
魚は水の中でしか動けない
本当に?
ほんとうに
私達は空に生きているから、逆に水の中で泳いでいる魚を見たことがない。
だから私たちは下に降りて、水の中を泳いでいる魚を見ることにしたのだ。
それが間違いだったことを後から知ることになる。
なんか地上ってこう歩くの大変なのね
ごつごつしてて変な感じ
ふふふ
ふふふ
初めて降り立った地上は雲の感触と違ってごつごつと硬い感触が足の裏から伝わってくる。
少し痛いけれど気にせず私達は歩き続けて、海という場所に向かう。
海には魚がたくさんいるという。
私達はそれを彼女や彼から聞いて水中にいる魚を見にここまで来ているのだ。
魚。
さかな。
サカナ。
私達は海へ辿り着くまで、だらだらと話し続ける。
海に着く頃には話しすぎて声が枯れていたのを覚えている。
それでも海に着いて声が枯れているのに私達は、はしゃいで波打ち際に駆け寄って裸足のまま海の水に触れる。
冷たい。
海の水は冷たい。
雲の上の水の冷たさとはまた別の冷たさで、私達はこれにもきゃっきゃと笑いあう。
そのまま水の上を裸足で歩く。
私達の体は水に沈まないのでそのまま水の上を歩いて沖合へと出る。
途中、船などはなかった。
そして水の上に飛び出てくる魚もいなかった。
ひんやりとした触感。
ぺたぺたと水の上を歩く。
陸地が見えなくなったところで私達はしゃがみこんで水中を覗き込む。
何も見えない。
魚も見えない。
ここに魚がいるなんて嘘だったのかな?
彼等が嘘をつくなんてことはないよ
そうだよね……でもそれならどうして魚の姿が見えないんだろう?
もっと深いところに居るのかもしれない
行ってみよう、その言葉に続いて私達は水をかきわけて下へと降りる。
水がかってに私達を避けてくれるので、体は水に濡れることはない。
水が私達を避けてくれたおかげで難なく底へと着くことが出来た。
上が水でふさがれる。
私達の周りが円になる。
しかしそれでも魚はいない。
私達は魚を見つけるために海底を歩き続ける。
ずっと、ずっと、歩き続ける。
雲の上ではある決議採択されていた。
地上に降りた者は二度とこちらには戻って来ることはできない、というものだ。
そしてもうひとつ。
地上に降りた者が現在居る場所で、地上のモノに変わる。
陸地に居る者はオリーブの木やハーブに。
水中、淡水に居る者は砂金に。
海に居るものは珊瑚に。
この採択がされた瞬間から、地上に居る者は変わる、と。
魚も寄りつかない海底に大きな白銀色の珊瑚がふたつ発見されるのは、ヒトが誕生して何千万年も経った後の事である。