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巡らせるな
季節を巡らせる旅人がきて、今年も冬になってしまったのは一ヵ月ほど前のことだ。
今回街にやってきた旅人は精霊持ちと呼ばれるタイプだった。
そのせいで今回の冬は生きてきた中で一番寒い。
寒すぎる冬になった。
あの精霊持ちの旅人はいつもこうなのだろうか。
いつもこんな訳の分からない寒さの冬を連れてくるのだろうか。
だとしたらあの旅人は災害ではないか。
私達は普通の、ごく普通の冬を連れてきてほしいのだ。
冬に限らず、連れてくる季節は普通であってほしい。
そう願うのならば自分で季節を巡らせろという文句が飛んできそうだが、一般人には無理だ。
旅人の素質を持っていない一般人には、とうてい無理。
旅人全員がなりたくて旅人になったわけではないのだろうけれど、それでも旅人になったからには職務を全うしてほしい。
普通の季節を巡らせてくれ、と。
自分に出来ないことをやってもらいながら、そんなことを思ってしまうのは駄目なことだろうか。
どうあがいても自分には無理なことにたいして、そう……一般人はそう思うことすらもいけないのだろうか。
窓の外に目を向けると、今日もまた雪が降っている。
大粒の塊のような雪だ。
きっと水分を含んでいて、いつもの私の知っている雪よりも重たいのだろう。
今年はずっとそういう重たい雪が降っていて、その除雪作業に多くの人が悲鳴を上げているのは言うまでもない。
そして口々にあの旅人のことを話す。
今年の旅人は酷いものだ、と。
いままであんな旅人はいなかった、だの。
こんな冬はありえない、とか。
いろいろと好き放題言っている。
その人達は旅人にたいしての負い目のようなものを持っていないのかもしれない。
だからあんなに簡単に好き放題言えるのだ。
自然と重いため息が出る。
そして同時に下の階から母親の呼ぶ声がする。
ちょっとー!
手空いてるなら雪かき手伝ってよー!
今月何回目だろう。
頭の中で数える。
五回目まで数えたところで、下の階から催促の声が上がる。
ああもう!
何にイライラしているのか自分でもつかめないけれど、思い切り強く足を踏み鳴らして階段を駆け下りる。
階段下の玄関では母親がコートと手袋、ニット帽にマフラーという重装備で私を出迎えた。
玄関に降りただけで寒いのだから、外はもっと寒いのだろう。
うんざりとしながら私は玄関横のコート掛けにある自分のものに手を伸ばす。
母親はその様子を見るとさっさと玄関を開けて外に出て行った。
最悪……
そんな言葉が漏れ出たけれど、それを聞いている者は私以外にはいなかった。